*魂の次元* (by としべえ)

肩から力を抜いて、自由に楽しく生きる。

あなたの脳は11次元? ついでにカラパイアさんにちょっと一言

カラパイアという「不思議科学系」のサイトがあります。
そちらにこんな記事が出ていました。

多次元にもほどがある。人間の脳は最大11次元の構造を持つ可能性(代数的位相幾何学) : カラパイア

従来の数学をまったく新しいやり方で用いて、脳の構造を覗き込んだ神経科学者がいる。そして明らかになったのは、脳は最大11次元で動作する多次元幾何構造を持つということだ。

というのですから、何やら神秘的でおもしろそうな話に思えますが、さて、その実際はというと......。

この研究はスイスが主導するブルー・ブレイン・プロジェクトの一環として行なわれたもので、スーパーコンピュータを用いて、脳の機能を解明しようとするものです。

そこで使われた数学的手法は「代数的位相幾何学」だ*1というのですが、これは「グラフ理論」といったほうが適切でしょう。
そこで使われた数学的手法は「代数的位相幾何学」*2なのですが、ここでは「グラフ理論」と考えたほうが分かりやすいので、その範囲で説明します。

この研究では、

「ラットの脳の新皮質に11次元の動的な構造が見つかった」

というのですが、このときの「次元」は、「グラフ理論」においての「次元」を意味しますから、

「最大12個の神経細胞同士のすべてが互いにつながっている動的な構造が、ラットの脳の新皮質で見つかった」

という話であり、超弦理論や超重力理論の 10次元や11次元といった話とはまったく関係がありませんし、みなさんの頭の中で、高次元の不可思議な幾何学体が生成・消滅を繰り返して、人間の意識という神秘的現象が発生することが分かった、というわけでもありません。

あくまでも、「『わりと複雑なネットワーク』が脳の中で活動している」ことがコンピュータモデルで確かめられたといった程度の話です。
  *  *  *

上記の表現で「11次元の構造」なのに「12個の神経細胞」と書いてあるので、おや? と思われた方もいるでしょう。

グラフ理論で扱うのは、「頂点」と「頂点と頂点を結ぶ辺」を扱います。
(なお、この研究では、辺に向きがある有向グラフを基本的に扱っています)

頂点が3つのとき、すべての頂点を互いに結ぶと、三角形ができます。

このように、「すべての頂点が互いに結ばれたグラフ」を「クリーク」と呼びます。

頂点の数を n とすると、クリークの次元は n - 1 となります。

3つの頂点のクリークの次元は、3 - 1 = 2 です。これは三角形が2次元の構造であることを意味します。

頂点が4つの場合はどうでしょうか。

この場合は、三角形を四枚貼り合わせた四面体の形になります。

頂点は4つなので、そこから1引いて、3次元になります。確かに、四面体は3次元の構造になっています。

この研究中の実験では、31,000 の神経細胞を含むラットの大脳新皮質から得られたデータ・モデルを用いました。

そのモデル上で、8,000万の3次元クリークが発生する中、6次元から7次元までのクリークが恒常的に現れ、最大11次元のものまで発生した例があった、ということです。

このような高次のクリークについては、今まで、生物学的な神経ネットワークとしても、人工的なニューラルネットワークとしても知られていなかったとのことです。

このような高次のクリークが作る動的構造から、実際にどのようにして脳の様々な認識機能を生まれてくるのかは、今のところ分かりませんが、大脳新皮質の神経細胞の連絡に、このような動的構造が存在することが実験的に示されたことは、脳の機能の解明に向けて一歩前進したことになりましょう。

  *  *  *

というわけで、11次元といっても、別に「神秘的」な話ではなかったのですが、脳の神経細胞レベルの機能の解明は、まだこの程度だったのか、と逆に驚かされました。

まだまだ、これからの機能解明が楽しみですね。

なお、元記事、
The human brain can create structures in up to 11 dimensions - ScienceAlert
には、ちゃんと、この研究でいっている「次元」が、「縦・横・高さ」の「次元」とは異なることが書いてあるんですけど、なぜか、カラパイアさんの記事ではその説明がなくなってしまっています。

そして、カラパイア版のこちらの部分。

同チームは、代数的位相幾何学(形状の変化にかかわらず、物体や空間の特徴を記述する数学)を用いて、神経細胞集合が”クリーク(小集団)”に接続されており、クリークの中の神経細胞の数が高次元幾何的オブジェクトとしてのサイズを決めることを突き止めた。

この部分はちょっと誤解があって、前にも説明したように、

  • クリークというのは、「すべての頂点が互いに結ばれたグラフ」で、
  • クリークの頂点の数 n によって、次元 n - 1 が決まる

というグラフ理論の説明です。

「神経細胞の数が高次元幾何オブジェクトのサイズを決めることを『突き止めた』」わけではありません。

カラパイアの翻訳者の方も、お忙しいなか大変なことと推察いたしますが、もう少し丁寧な翻訳をこころがけていただけたらと思います。

てなところで、この記事はおしまいです。
それでは、みなさん、ナマステジーっ♬

*1:原論文にもそのとおり書いてあります。Frontiers | Cliques of Neurons Bound into Cavities Provide a Missing Link between Structure and Function | Frontiers in Computational Neuroscience

*2:「脳の構造の次元」という部分に直接関係がないので読み飛ばしていたのですが、原論文 Frontiers | Cliques of Neurons Bound into Cavities Provide a Missing Link between Structure and Function | Frontiers in Computational Neuroscience にはキャヴィティについて記述があり、オイラー数やベッチ数を計算していますので、代数的位相幾何学ということで間違いないようです。id:egory_catさん、ご指摘ありがとうございました

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