イタロ・カルヴィーノは、20世紀のイタリアの作家のうちでもっとも有名といっていいくらい各国に翻訳されている作家であり、日本語でもほとんどの作品を読むことができます。その作風は、作品ごとにさまざまで、初期の代表作『木のぼり男爵』は寓話風の物語、日本では早川書房から出版されている『レ・コスミコミケ』はSF的ほら話の連作短編、ポストモダンの教科書とも呼ばれる『冬の夜一人の旅人が』はその本を読んでいるあなたが主人公になるメタ・フィクションです。
あなたは「ミステリ」って一体どういう小説のことをいうと思いますか?
のっけから唐突な質問で恐縮です。
鯨統一郎の連作短編小説集「邪馬台国はどこですか?」に狂言回し役として登場する気鋭の歴史学者・早乙女静香なら、
「それに答えるには上下二巻の本を書く必要があるわ」
という答えが返ってくるところでしょうが、ここではクールで常識を超えた主人公・宮田六郎を真似て言うことにして、
「ミステリとは謎解き小説のことさ」
とでもしておきましょう。
なぜそんな話をしているのかというと、「邪馬台国はどこですか?」というとぼけたタイトルを持つこの短篇小説集は、創元推理文庫から出版されているにも関わらず、常識的には到底ミステリとも推理小説とも呼びようのない奇妙奇天烈な作品だからです。
この作品の舞台は「スリーバレー」という名の小さなバー。そこで在野の歴史学者・宮田六郎が、常識に挑戦する突拍子もない奇説を展開して、ほかの三人の登場人物を煙に巻く、というのが全編を通して共通する単純明快なパターンの短篇集なのです。
日本古代史が専門の大学教授・三谷敦彦は落ち着いた聞き手役、お人好しでちょっとおとぼけのバーテン松永は、宮田の奇説に納得する役回り、そして気鋭の若き歴史学者・早乙女静香の毒舌全開の突っ込みが話を盛り上げます。
というわけで、この「人も死ななければ、事件も起きない」不思議なミステリについて、これから「できる限りネタバレ無し」で紹介してみたいと思います。
(内容について触れるだけで、一種のネタバレになりますので、各短編タイトルから分かる以上のことは、極力触れないようにしております)
収録短編を一挙紹介! 小説としての面白さと限界について一言。特に女性の読者の方への注意点 「悟りを開いたのはいつですか?」については、こちらの記事もどうぞ 収録短編を一挙紹介! さて、この「歴史謎解きトンデモ短編集」に収められた作品のタイトルを、まずは眺めてみることにしましょう。
「悟りを開いたのはいつですか?」 「どんな人物が、どんなふうに、いつ」悟りを開いたのか、まず読む前に想像をたくましくしてお楽しみください。
邪馬台国はどこですか? 表題作であり、文献を丹念に読み解き続けるだけで、「あっ」という結末を導き出す「ケッ作」です。
聖徳太子はだれですか? 最近では「聖徳太子はいなかった」という説も唱えられていますが、果たして聖徳太子は「だれ」だったのでしょう?
謀叛の動機はなんですか? 日本人なら誰でも知ってるあの「謀反」は、なぜ起こったのか。
歴史「探偵」宮田六郎が、心理学を駆使した華麗な謎解きで、あなたを唸らせます。
維新が起きたのはなぜですか? 維新が起きた理由を説明するには、もちろん「上下二巻の本を書く」必要がありますが、日本の近代史のターニングポイントであるあの「革命」が、ある一人の人物の「奇術」によってなされていたとしたら...... びっくり仰天しちゃいますよね。
奇蹟はどのようになされたのですか? 世に奇跡の種は尽きませんが、世界的にも有名なあの「奇跡」をなんとも合理的に「説明」してしまう、宮田六郎の華麗な文献読み解き術をお楽しみあれ!
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
☆ここでちょっと一休み、<スポンサード・リンク>です。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
小説としての面白さと限界について一言。特に女性の読者の方への注意点 この短編集の第一の魅力は、なんといっても
常識をちゃぶ台返しにする、奇想天外でトンデモな「真説」を、 詳細な文献の読み込みと、アクロバティックな議論によって「もっともらしく」説明するところにある といって間違いないでしょう。
そのとき、大変残念なことなのですが、登場人物の設定と、その間での言葉のやりとりに関しては、「十分にうまくいっている」とまでは言えません。
もちろん「トンデモな謎解き」だけで、完全に楽しく読めますので、謎解きが好きで、歴史にも興味のあるあなたには、蝶おすすめ作品です。
ただし、一つだけ注意点があります。
というのは、狂言回しの役を果たす「早乙女静香」氏の設定が、かなりアナクロ感漂う、過度にヒステリックな「綺麗なだけで実力の伴わない若手女性学者」となっていることです。
男のぼくでも、このヒステリックな感じは「うるさいな」と思うくらいなので、あなたが「男女の不平等に敏感」な女性の場合には、これはちょっと読んでられないなー、くらいに思われるかもしれません。
はてな村のみなさん、こんにちわー。
今日は仏教とSFの話の抱き合わせだよっ。
たった一生で涅槃に到達できる!! 4つの真理と8つの方法をお教えします♬ 蝶おもしろSF小説「星を継ぐもの」のご紹介 たった一生で涅槃に到達できる!! 4つの真理と8つの方法をお教えします♬ 4つの真理を知って、 8つの方法を実践すると、 もう生まれ変わることのない悟りの境地に到達できる、 これがお釈迦さまの教え、仏教の根本ですよね。
「そんな抹香臭いこと、おいらにゃ関係ないよ」というそこのあなた。
そうは言っても、人生「ままならないこと」が多いじゃありませんか。
(4つの真理の第一、この世は「ままならないこと=苦」で満ちている)
その「ままならないこと」が、あなたの「欲望」から生まれてきているとしたら、どうします?
(4つの真理の第二、「苦」の原因は「欲望」である)
えっ、「欲望」の何が悪いのかって?
いや、人間、「欲求の充足」は大切ですが、「欲望増幅」の魔の手に落ちると、人生大変でござんすよ。
そこでです、「欲望」増幅のスパイラルを抑えることができれば、「苦」から解放されるっていう寸法なんでありますわ。
(4つの真理の第三、「欲望」を止めれば「苦」もやむ)
で、どうやって「欲望」を抑えるかと聞きなさる? こちらの8つの方法を実践すれば、ばっちりでござんすよ。
(4つの真理の第四、「欲望」を止めるためには、「八正道」を実践すればいい)
というわけで、8つの方法、
正見、正思惟、正語、正業、正命、正精進、正念および正定、
こいつをじっくりと実践していけば、このあと何度も輪廻転生を繰り返さずに、
なんと「たったのこの一生」で解脱できる
という、ありがたい教えなんよー、お釈迦さまの説いたのは。
「別におれは、悟りなんかいらないけどー」というそこのあなた。
ここだけの話ですが、この修行法、得られるのは「悟り」だけじゃないんです。
人の心を読んだり、人の心を操ったり、ブログのタイトルを一瞬で思いついたり、アクセスを十倍にしたり、なんでもできるようになります、ほんとです、嘘じゃありません。
人間の精神の力は無限なんです。アインシュタインは人間の愚かさを無限の代表として上げたようですが、人間の智慧も無限なんです。瞑想をすれば、無限の力と、永遠の時間が手に入ります。ほんとです、嘘じゃありません。
指切りげんまんします。嘘ついたら針千本飲みます。嘘じゃないんです。方便なんです。
......というわけで、偉大なコピーライター、お釈迦さまこと、ゴータマ・シッダルタさんが、我々人類に授けたくだすった、
「最高に蝶科学的な瞑想法ヴィパッサナー」
については、こちらの記事で書いてますので、興味のある方は、お時間あるときに、よろしければ読んでおくんなましーー。
・マインドフルネスとヴィパッサナー瞑想について・蝶入門編 - 24 時間の瞑想術
(近々たわし師匠用に、オーディオ版もご用意いたしましょうかね)
なお、この項のタイトルは、相田ケイさんの記事、
・ブロガー必見!劇的にシェアされるタイトル付けテクニック30選【保存版】 - オモロク
より、「読み手はすぐに結果を出したい」という心理の秘孔をついた
「ほんの数分で〜・数秒で〜・たった数日で」型のタイトルとして、
一瞬にして、楽ちんに、何も考えずに、つけさせていただきました。
これで、当サイトのアクセス数は十倍増、当記事のブックマーク数は壱万越え、絶対まちがいなしと思われます。
いつも貴重な情報を提供してくださっている相田さんには、改めて感謝の言葉を申し上げたいと思います。
「シュークリエ、ダンニャバード、コップンカァ。カラスもカァ」
蝶おもしろSF小説「星を継ぐもの」のご紹介 さて、話はまったく変わります。
夜中たわし氏の記事、
・ハードSF小説『巨人たちの星』オーディオブック版感想 - 夜中に前へ
を読んで、「へー、こんなのもオーディオブックになっているのか、と感心しました。
SFファンには言わずと知れたジェームズ・P・ホーガンの傑作ハードSF小説「星を継ぐもの」に続く三部作の完結編です。
ぼくは一作目の「星を継ぐもの」しか読んでないんですが、たわしさんも書く通り、三作目に至って「社会派」ハードSFになってしまうもので、そこのところ、どうしても評価が分かれるようです。
ともあれ一作目の「星を継ぐもの」に関しては、多くの人がベスト10に入れるくらい評価の高い作品ですよね。
たわしさんの紹介はこちらです。
・ハードSFの傑作『星を継ぐもの』がオーディオブックで配信開始! - 夜中に前へ
月面で見つかった真紅の宇宙服を身にまとう死体は、死後五万年を経過していた。そして木星の衛星ガニメデで、地球のものではない宇宙船の残骸が発見される...... 。
謎解きハードSFとして、ページをめくる手が止められない、この読み応えのある小説を読んだ、若き日の自分が脳裏に蘇ります(笑)。
SF好きの方で、まだ読んでない方には *絶対的* におすすめの一冊です。
はてなのみなさん、こんにちわ。
昨日の記事
Google Adsense 戦史 - あるいは、ネット上で小遣いを稼ぐまでの遥かなる道行き - *魂の次元*
では、すっかり放ったらかしていたグーグルアドセンスのページを久しぶりに見にいったら、収入が 1,000 円を超え、グーグルからの支払い準備のための住所確認の段階に達したという、ささやかな報告をさせていただきました。
今日は、こちらもまたまた、ごっそり放っぽらかし状態のアマゾン・アソシエイトを覗いてみたところ、今年に入ってから 300 円ほどの収入が確認されましたので、防備録がてらの記録ついでに、お買い上げのあった商品を紹介してみることにします。 1. 紹介して売れた本
・EARTH GYPSY(あーす・じぷしー)[ 2点お買い上げ]
こちらは、双子の姉妹、なほとまほが、普通の社会人をやめて、世界を旅しながら自由に人生を生きるようになるまでの姿をつづったノンフィクションの物語です。
「アウト・オン・ア・リム」や「アルケミスト」をご存知で、精神世界・スピリチュアル方面に関心のある方には蝶お勧め、アヤワスカ体験の記述もすぐれもので、日本発のサイケデリックノベルとしても大変おもしろく読めます。
もう少し詳しい紹介はこちらの記事をどうぞ。
魂の次元: [本の紹介]不思議な双子の物語、Naho & Maho「あーす・じぷしー」
・なまけ者のさとり方 (PHP文庫) [ 3点お買い上げ ]
こちらも精神世界系の本で、古典的といってもよい作品ですが、楽に、快適に人生をすごすための、世界観と心構えを書いた本とてほもいったらよいでしょうか。
ややオカルトめいた記述もありますが、広い意味では自己啓発本といってもよい内容で、そういった系統の本に興味のある方にも、少し毛色の変わった本として自信を持っておすすめいたします。
2. その他、ぼくのリンクを辿ったのち買っていただいた商品
(お買い上げは各 1 点ずつ)
・オカルト探訪マガジン 怪処 3号 -特集 西日本異景/即身仏/ソウルフード
・オカルト探訪マガジン 怪処 5号 - 特集 奇怪なるハコモノ/つくりびと知らずアートの世界
世の中にはこんな雑誌もあるのですね。アメブロつながりの知人が買ってくれたもののような気がするのですが、なかなかディープで楽しいラインアップです。
・思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書
佐々木繁範さん、元ソニーCEOスピーチライターの方の著書です。
話ベタなぼくに、この本を読んで勉強するべしとの、神様のお告げでしょうか。
・マイ・ウーマン
エンジェル・オルセンというアメリカの女性シンガーソングライターのアルバム。不勉強にしてまったく知りません(笑)。
てなことで、本日もご精読ありがとうございました。
それではみなさん、ナマステジーっ♪
夜中たわしさんが、
親族により70余年封印された本『悪魔を出し抜け!』オーディオブック版感想 - 夜中に前へ
という記事で、ナポレオン・ヒルの「悪魔を出し抜け!」を紹介しているので、ぼくも便乗してちょっと書いてみます。
この本はいわゆる自己啓発本ですので、「お金を儲けたい」あなたや、「有名になりたい」あなた、そして、「とにかくネット上でビッグになりたい」あなたなどには打ってつけの本ということになります。
そして、さらに言えば、「ニートな悟りを決めたい」あなたにこそ、ぜひ読んでいただきたい一冊だったりもするのです。
ぼくはどちらかというと、マイナー「指向」にしてマイナー「思考」な人間ですので、題名に「悪魔」という言葉が入っていなかったら、この本を本屋で手にとることもなかったでしょう。
そうです、この本のとっても面白いところは、悪魔があなたに「ビッグになる」方法を教えてくれるところなんです。
ナポレオン・ヒルは、アメリカにおける自己啓発本の本家本元みたいな人ですが、その彼が「ある精神的な危機を経て、悪魔とコンタクトを取れるようになった」というのが、この本に書かれている文字通りのいきさつです。
たわしさんは、悪魔とコンタクトを取ったというのは方便であり、刺激的すぎる内容を直接自分の言葉として語るのは差し障りがあるので、悪魔の言葉として語ることにしたのだろうと、書いています。
確かにそうかもしれません。
けれども、「命に関わるような精神的な危機」を経験することによって、普段は入ることのない「変性意識状態」に入るということは、十分ありうることでして、ナポレオン・ヒルが「実際に悪魔と対話した」と思っていたとしても、これはなんらおかしなことではありません。
少し時代はさかのぼりますが、イエス・キリストさんだって、神の声を聞いたと思ったわけだし、周りの人たちもそれを信じたわけですから。
さて、そこで悪魔が何を教えてくれるか、ということなのですが、それは
「いかにして悪魔が人間をコントロールしているか」
という方法なんですね。
で、ナポレオン・ヒルさんは、どういうわけか悪魔と友だちになってしまい、悪魔のやり口を教えてもらってしまいましたから、これを逆転することによって、「悪魔を出し抜く」ことが可能になるわけです。
悪魔を出し抜きさえすれば、ほら簡単、あなたはあっという間にビッグになれるという次第です(嘘)。
で、いかにして出し抜くかということですが、これを一言でまとめてしまうと、
「ヒプノティック・リズムにはご用心」
ということになります。
たわしさんはそれを
「悪魔にコントロールされないためには、周囲に流されず、自分の頭で考えろ」
と表現なさっています。
はしょって説明すると、悪魔の目的は「自分で考えない、周りのいいなりになる人間を作ることで、この世界を堕落させる」ことにあるわけです。
そのとき悪魔は、「ヒプノティック・リズム」という人間を催眠状態に落とし入れる波動によって、人間をコントロールしているとのこと。
そのことを十分に意識していない限り、人は簡単に「周りに流される、いいなり人間」になっちゃうって話なんですね。
そしてこの「十分に意識する」っていうのが、めちゃめちゃ難しい。いろいろなエピソードを通してその「難しさ」についてもきちんと書いてありますので、あなたが本当に「悪魔を出し抜きたい」のだったら、役に立つことは間違いないです。
この本は自己啓発本ですから、全体のストーリーは「流されない人間になって、ビッグになろう」というふうなものなのですが、基本的な考え方は、お釈迦さまの説く、初期仏教ともそっくりだなと、ぼくなどは思います。
ぼくの場合、涅槃・寂滅を目指す、仏教的なストーリーの方に、どちらかといえば惹かれるわけですが、キリスト教的でビジネス畑のナポレオン・ヒルさんの書く「真実の書」が、「世間に流されない人間になろう」という主張において、仏教とほぼ同じ結論に達していることには、とても興味深いものを感じます。
というわけで、「ビッグになりたい」あなたにも、「ニートな悟りを決めたい」あなたにも、蝶おすすめの一冊ということなのでありました。
ほいでは、気になる方は、ぜひアマゾンでチェックしてくださいねー。
ナポレオン・ヒル「悪魔を出し抜け!」きこ書房2013
クリスティーナ・ホール「言葉を変えると、人生が変わる」大空夢湧子訳、2008年、ヴォイス
google ブックスでカスタネダを検索していたら、この本が目に入った。
カスタネダの「イクストランへの旅」から言葉によって自分を変える方法を書いたくだりが引用されている。
自分をダメな人間だと思っている人に、八日間「自分はダメな人間じゃない、すばらしいんだ」と言い聞かせるように勧める内容で、そうすることによって「自分はダメな人間だ」というのも「自分はすばらしい人間だ」というのもどちらも錯覚にすぎないことが分る、というような話。
言葉のもってる大きな力は分ったつもりでいるんだけど、なかなか体得するところまではいかない。
この話を久しぶりに読んだのをきっかけに、またちょっとこの練習をしてみることにしよう。
ところで、著者のクリスティーナ・ホールはNLP(神経言語プログラミング)の大家だそうで、このNLPというやつ心理学的な技法の一つなのだが、名前こそよく聞くもののくわしくは知らない。
この本もそのうち読んでみようかな。
遠藤ミチロウが歌っている「Mr. ボージャングル」しか知らなかったんだけど、ずいぶん昔のアメリカの歌だったんだね、こいつは。
ミチロウのバージョンももちろんいいんだけど、こっちにあるニーナ・シモンのもとってもいい。
よかったら聴いてみてよ。
http://www.youtube.com/watch?v=tJs3ooeQDYY
カート・ヴォネガット「国のない男」によると、マルクスが宗教を共産主義と相容れないものとして否定した、
というのは後世の人の誤解のようだ。
以下、引用。
スターリンの教会破壊や現在の中国での教会破壊についてだが、この種類の宗教弾圧はカール・マルクスの
次の言葉が原因になっているらしい。つまり「宗教は民衆のアヘンである」というやつ。
マルクスがこう書いたのは 1884 年、アヘンおよびアヘン誘導体がだれもが手に入れることのできる唯一の
効果的な鎮痛剤だった頃のことだ。マルクス自身もアヘンを使用していて、その場限りであっても苦痛を
やわらげてくれるアヘンに感謝していたという。
マルクスは客観的な事実を述べているのであって、宗教がいいとか悪いとかいう話をしているわけではない。
宗教は、経済的、あるいは社会的な困難に対する鎮痛剤になりうるということだ。
つまり、宗教を否定しているわけではない。
まあこれは、誤解というよりは、スターリンやそれに類する人が、マルクスの言葉を自分に都合よくねじ曲げて
その解釈を流布したということだろうけど。
「欲望と消費 トレンドはいかにして形づくられるか」スチュアート&エリザベス・イーウェン、
小沢瑞穂訳、晶文社1988
ぼくたちは、ぼくたちの生きる社会を「資本主義」社会として受け止めているのだろうか。
それとも「消費主義」? あるいは「浪費主義」?
それはある意味「広告主義」の社会なのかもしれない。
十五世紀半ばのヨーロッパに始まる印刷の歴史から説き起こし、現代におけるメディアの意味を
解読するこの本は、三十年近く前に出版されたにも関わらず、インターネット全盛の今という時代を
客観的に見ようとするものには必読の書といっても大げさではないだろう。
山田正紀「地球・精神分析記録(エルド・アナリュシス)」
心理学的冒険sf。
今から三十年ほど前、中学生の時に読んでさっぱり分らなかったが、帯の惹句、
「狂っているのは私なのか、それともこの世界なのか」というのが忘れられず再読した。
いささか古めかしいし、若書きの感は否めないが、日本sfの源流を探るためには
外せない連作長編だろう。
二番目の短編「憎悪 オディウス」のインドの街ヴィシュの設定は、「ブレードランナー」や
「ニューロマンサー」に先駆ける雰囲気が感じられ、海外放浪の経験を持つ山田正紀ならではと
思う。