書評家の冬木糸一氏が
薬物はどのように精神を変質させるのか?──『幻覚剤は役に立つのか』 - 基本読書
という記事で、幻覚剤のもたらす変性意識の医療的意義について紹介しています。
アメリカのジャーナリスト、マイケル・ポーラン氏が自らの幻覚剤体験を踏まえて書いた
「幻覚剤は役に立つのか」
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を通して、冬木氏の紹介は興味深くも的確ですが、残念ながら氏にとっては「LSDやマジックマッシュルームは『やばいドラッグ』」であって、氏自身はそうした薬物の経験をお持ちではありません。
この記事では、マジックマッシュルーム、大麻などの経験とともに、ヴィパッサナー瞑想も練習している者として、幻覚剤の効果と社会的意義を、その危険性も含めて素描してみます。
ガン患者の世界観変容 幻覚剤による変性意識の実際 バッドトリップの恐怖 幻覚剤は脳神経をどう活性化させるのか 幻覚剤の使用は倫理的に許されるのか? ガン患者の世界観変容 冬木氏はまず、ガンの末期患者に対して行なった、マジックマッシュルームの主成分サイロシビンの投与実験を紹介しています。
これは、余命宣告をされ、自分の死と向き合うことを余儀なくされた人たちが、幻覚剤による意識変容によってQOL(クォリティ・オブ・ライフ)を高めることができるか、という問いかけです。
それぞれが、身体によって認識する自己というものを超越し、自我からの解放を経験する。ジャーニーから戻ったとき、患者さんたちは新たな視野を手に入れ、すべてを受け入れる境地に至っている。
実験をした研究者はこのように述べたとニューヨーク・タイムズは伝えているそうです。
これについて「一時的にラリってハッピーになってるだけなのか」というのが、冬木氏の関心の置きどころです。
そして氏は、幻覚剤の投与による変性意識状態の脳科学的考察を経たのち、
「一時的に死の恐怖を忘れられるだけでなく、長期にわたって死に対する恐怖感などが減じ、世界観自体ががっと切り替わる(ことがある)のは確かなようである」
と結論しています。
ぼく自身の経験に即して言えば、マジックマッシュルームによる変性意識の体験*1は、理性的な思考だけでは届かない、体感と情動が一体となった深い認識への扉を開いてくれることになりました。
アルコールでしか変性意識の体験がない日本の多くの方は、薬物を摂取して得た、「歪んだ認識」にどんな価値があるのか、と疑問を感じるところでしょうが、人間がいつも経験している普段の認識こそが、「理性や習慣の枠に狭められて歪んだ色眼鏡越しに見ている、一種の催眠状態にすぎない可能性」をここで思い描いていただけたらと思います。
幻覚剤による変性意識の実際 マイケル・ポーラン氏はLSDによって、家族の顔が次々と浮かび、深い愛情に満たされる経験をします。
またサイロシビンによっては、
「私は確かにここにいるのだが、私自身とは別の何かになっている。そして、感情や感覚を持つ自分はもういないのに、なんとなく穏やかで満ち足りた感じは残っている」
と感じます。
そしてソノランデザートヒキガエルからとれる幻覚剤*2を摂取したときには、
「私が消失し、紙吹雪のごとく吹き飛ばされて、「私は存在する」という感覚すら消え、「死ぬとこんな感じがするのか?」 という問いが浮かんだとのことです。
ここに引用したポーラン氏の体験では、自意識の体験の変容が強調されていますが、人により、時により、体験は多様です。
マジックマッシュルームによるぼくの体験で印象的だったものの一つは、空に浮かぶ雲が、巨大で邪悪なマシュマロマンに見えたことです。
我々の理性は「空にマシュマロマンなどいない」と言ってそれを否定します。けれども自分の脳の神経回路がそこにマシュマロマンを見てしまっている以上、その体感を否定することはできません。
記憶や感情を司る領域が視覚情報処理領域とじかに交流するようになれば、希望や恐怖、先入観や感情が視覚に影響を与えはじめる。まさに、原初的意識の特徴であり、魔術的思考につながるレシピである。
とポーラン氏が書くように、魔術的思考が自分の身のうちに存在することを、幻覚剤は教えてくれるのです。
そしてこのような「幻覚作用」は、単に奇妙で興味深いものであるにとどまらず、普段の意識ではつながらないものをつなげることで、新しい科学的発見につながる可能性もあれば、世界観の変容をもたらす可能性も持つのです。
さて、サイロシビンなどの幻覚剤は、脳内のさまざまな神経伝達物質の作用に対してアクセルを踏んだり、ブレーキを踏んだりすることで意識の状態を変性させます。
こうした意識変性作用は、幻覚剤をどのくらいの量摂取するかによっても当然異なってきますが、同時にどういう気持ち(セット)で、どういう環境(セッティング)のもと摂取するか、によっても大きな影響を受けます。
ポーラン氏や実験を受けたガン患者の人たちは、安全かつ十分な効果がある量の幻覚剤を、落ち着いた気分で、安心できる環境のもと用いることで「よいジャーニー」をすることができたわけです。
逆に言えば、不安がある状態で幻覚剤を摂ることは、精神の安定をそこない危険を招くことにもなります。
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バッドトリップの恐怖 たとえば、世界最強の幻覚剤であるLSDを不用意に摂った結果、自分に体があるのかないのかが分からなくなり、自分に体があるのを確かめようとして、体を切り刻んでしまったというエピソードを何かの本で読んだことがあります。*3
