仏教では「無我」を説きます。

ふだん自分と思っているものは、よくよく吟味すると、独立し ていて、恒常的に「自分」と呼べるようなものではない、というわけです。

ですから「ぼく」が考えたり、感じたりしていることも「ぼくの考え」、「ぼくの感覚」ではなく、客観的な表現をすれば「この体に起こっている考え・感覚」ということになります。

ヴィパッサナーと呼ばれる初期仏教の瞑想を練習していると、このような「理解」が体験的なレベルで生まれてきます。


ある程度まとまった時間、瞑想の練習をしていると、「さっき浮かんだ考えも、今感じてる感覚も、大空に浮かぶ雲のようなもので、ただやってきては去っていくもので、それが自分だと思う必要はないんだな」というような実感が生まれるわけです。

瞑想というものによって、自分に対するとらわれに気づき、そこから離れる自由に生きる可能性を生み出すような「実感としての理解」が得られることは、このこと一つを取っても十分に興味深いものです。

けれども、さらに瞑想が深まると、世界に対する「統一的な理解」というものが生まれてくる場合があります。

いわゆる「悟り」体験です。

「悟り」が降りてくると、
「『この世界』のすべてが分かってしまう」
ので、とても大きな満足感が得られます。

「世界が分かる」というのは、仏教の教えが個々に体験的に理解されるだけでなく、世界全体を説明する原理としての、仏教的な世界観に間違いがない、と確信が、体感として得られるということです。

ただし、ここで気をつけないといけないことが二点あります。

一つは、理解を得た『この世界』というのは「自分がその時点で把握できている世界」でしかないということです。

『世界』が完全に分かった! と思っても、その『世界』の外にまだ理解していない世界があることに気がつく必要があります。

もう一つは深い瞑想状態で得られた理解は、瞑想のレベルが浅くなって普段の意識に戻ると、夢の体験のように、遠くなって、おぼろなものになってしまうということです。


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ゴエンカさん方式の10日間の合宿コースなどで、集中的に瞑想の練習をすると、こうした「プチ悟り」が訪れる場合がありますし、ぼくも実際そういう体験を何度もしてきました。

するとその度ごとに、理解できる『世界』の大きさが広がっていくわけです。

その結果、
「これは凄い、今度こそ悟ったぞ!」
と思うのですが、やっぱりその意識状態を保つことはできなくて、コースを終えて日常の暮らしに戻り、しばらくしてみると、普段の平凡な意識状態に戻っていることに気づくわけです。

とまあ、今平凡な意識状態でこれを書いていて思うのは、
「ここまで理解できたオレってやっぱ凄いんじゃね?」
ってことです。

もう少し正確に言えば、
「このような理解がこの体に降りてきているとは、この世界の仕組みはなんと玄妙なものだろう!」
ということになります。

もちろんぼくの理解のレベルなど、まだまだ浅いものですから、ここではなるべく客観的に、我を離れた視点から書こうとしてはいますが、どうにも自慢話になってしまっている面についてはご容赦いただきたいと思います。

仏教で説かれる無常・苦・無我や、苦を滅する方法について、個々の体験的な理解が得られ、また世界全体についての統一的理解すら生まれうることは、ヴィパッサナー瞑想の最大の醍醐味だと思います。

しかしながら、その過程においては「オレ悟ったぞ」的な「大きな勘違い」が起きてしまうことも多々あるわけで、これはまったくダサくてかっこ悪いことです。

けれども、そのダサさ、かっこ悪さに気づくことができれば、更なる瞑想の深みへと足を進めていくこともできるわけで、ぼく自身もここに書いたようなことによく気をつけた上で瞑想の練習を続けていきたいと思いますし、これを読んでくださっている皆さんにも何らかな参考にしていただけましたら幸いです。

なお、念のため申し添えれば、瞑想によって得られる体験はまったく人それぞれです。

ここに書いたような経験がないからといって、瞑想がうまくいっていないということにはなりません。

瞑想がうまくいっているかどうかは、日常生活の中で、快不快や、怒り・悲しみなどの感情に振り回されることが少なくなっているか、といったことが目安になります。

「悟り体験」を目的として瞑想をするようなことは、瞑想の進歩を妨げることにつながりかねませんので、くれぐれもご注意ください。

てなところで、この記事はおしまいです。
それではみなさん、ナマステジーっ♬

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