今日は、
精神科の「隔離と薬漬け」の末に亡くなった、38歳男性と両親の無念(佐藤 光展) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
という記事を受けて、日本の精神医療について書きます。

日本の精神医療は必要以上の投薬をしているのではないか、という疑問を述べるたともに、その現状を踏まえた上での精神医療とのつきあい方を考えます。

ストレス過多の現代社会では、不眠やうつなどの症状で医療のお世話になることも多いかと思いますので、「ひょっとして診察してもらったほうがいいのかな」と思っている方や、身近に精神医療を受けている方がいる皆さんのご参考になれば幸いです。

日本の「危険」な精神医療

精神科の「隔離と薬漬け」の末に亡くなった、38歳男性と両親の無念(佐藤 光展) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
という記事では、38歳の自閉症の男性が、国立病院機構が運営する広島県の精神科病院で4ヵ月半の入院治療を行なったのち、退院直後に突然死したケースが紹介されています。

  • 「治療」という名のもとに、
  • 「監禁」した上で
  • 「薬物漬け」にして健康を害した結果
  • 死亡に至った、

といっても決して言い過ぎではないような「医療事故」が、現在の日本社会で起きているなどということは、すぐには信じがたいことかもしれませんが、これはまったくの事実なのです。

ぼくは精神障害者の方のための作業所やグループホームに勤務した経験があるので、多剤投与が原因の一つになっているだろうと考えられる悪性症候群で亡くなった知り合いもいます。

また命には関わらないまでも、うつの治療で抗うつ薬を服用した結果、躁転して入院せざるを得なくなったと考えられる知人もいます。

こうした問題は、日本の精神科医の多くが、薬物治療について十分な知識を持たないままに、安易に多量・多剤の薬物投与を行なっていることが原因となっている可能性があります。

なぜ日本の精神医療は患者を「薬漬け」にするのか

あなたが仕事のストレスから不眠に悩み、毎日の生活がうまく回らなくなって、思い切って心療内科を受診したとしましょう。

ある程度の問診を受けた上で、医者は睡眠導入剤を処方してくれ、二週間なりひと月なり眠剤を飲んだ結果、不眠が改善し、眠剤に頼らずに眠れるようになったならば、あなたの「不眠」という症状は、「心の風邪」という程度のもので済んだことになります。

風邪もこじらせれば肺炎になる、などという言い方をしますが、「不眠をこじらせてうつにならなくてよかった」というところです。

けれどもこれは「幸いなケース」に過ぎません。

不眠に対して眠剤を処方することは、症状を抑えることにしかなりませんから、原因のストレスが改善しなかった場合、眠剤が手放せないことになりますし、あるいは不眠が軽くなったことでさらに仕事が増えるなどして、ストレスが強いものになれば、眠剤を増やさなければならない事態にもなりえます。
*1

風邪ならばとりあえず症状を抑えるだけの対症療法でも、それが自然治癒力を助けて、風邪が治ってしまえば何の問題もありませんが、このように不眠は風邪と同じには考えられない場合も多いのです。

ところが日本の精神医療は、薬物による対症療法以外の診療をほとんどしてくれません。

これには医者の「利益」が保険点数制度によっており、処方箋を書くことが、医者の「仕事」の大きな部分を占めることや、保険料として製薬会社に流れる大きな資金が関係しています。

つまり、お医者の先生は決して患者を「薬漬け」にしようと思っているわけではないでしょうが、

  • 対症療法としての薬物治療と、
  • それを支える処方箋優先の保険点数制度、

という日本の現状では、結果として「薬漬け」が蔓延しやすいわけです。

「薬漬け」にされずに、精神医療を利用するために

不眠に悩んで心療内科を受診する方の多くは、眠剤によって対症療法を行ない、一時的なストレスさえ乗り切れば問題ないかもしれません。

けれどもうつの症状が強く、休息が必要なケースなのに、抗うつ剤で調子を「上げる」ことで現状を維持しようとすると、薬物性の躁状態になる場合もあるので注意が必要です。

抗うつ剤の使用でテンションが高くなりすぎたり、イライラしやすくなったりしたら、まずは主治医とよく相談するのがいいでしょう。

向精神薬はさまざまな副作用が出る場合がありますので、不快な副作用があれば、これも主治医に相談するのが基本です。

ただし、医者の中には、患者の訴えを十分に聞く余裕のない方もいますので、主治医があなたの訴えを聞く耳をあまりにも持たない場合は、セカンドオピニオンを求めるなり、ネットや書籍で情報を調べるなりした上で、自己判断により減薬するというやり方もあります。

このとき注意が必要なのは、ネット上には向精神薬の投薬自体を否定するような極論も多々見受けられる点です。

理想としては、薬物に頼らずに心理的なサポートのみによって心の病を治療することも可能かもしれませんが、現実にはそのように十分なサポートを受けることは難しいでしょう。

長い間、多剤・多量の投薬を受けていたのに、向精神薬は害しかないと思い込んで、急激に断薬をすれば、離脱症状に苦しむことになりますし、最悪の場合は、命にも関わる事故にもつながりかねません。

ですからもしも自己判断で減薬する場合には、いきなり断薬すしたりせず、徐々に減らしていくことが必要ですし、なるべくなら主治医には減薬していることを正直に報告したほうが安全です。

なお、ぼく自身は医師や薬剤師の資格を持つものではありませんので、ここに書いたことを皆さんが参考にしたとしても、その結果については、残念ながらなんらかの責任を持つことはできません。

しかしながら、現に「無責任」な一部の医者によって「医療事故」が起こり続けていることも事実ですので、ご用心のうえで受診することをおすすめする次第です。

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この記事を書く力を下さったはてな村の皆さまへ

要注意・精神科の危険性・異常な過剰投薬 - 沖縄で島猫と遊ぶ日々・(ΦωΦ)フフフ版
島猫 (id:catpower) さんのこちらの記事を読んだことが、今日の記事を書くきっかけになりました。熱い記事を書いてくださった島猫さんに感謝します。

たぶん島猫さんは心の病での受診経験がある上で、冒頭の「医療事故」についての記事を見て、日本の精神医療を批判する記事を当事者として書かれたのだろうかと想像します。
(もし違っていたら、島猫さん、ごめんなさい)

一方、
「許されぬ」には二通りあって(別にいいんですけどね) - にぼしーの賢求所
という記事でにぼしー (id:yokkorasyo_dokkoisyo) さんは、島猫さんの記事に対して批判的な内容を書かれています。

島猫さんは日本の精神医療を全否定する形で記事をかいているので、その点の言い過ぎを指摘するという意味では、にぼしーさんの記事にも同感する部分はあります。

とはいえ、日本の精神医療を総体的に見たとき、個々のお医者さんにいくら優れた先生がいても、全体としての印象が「薬漬けの儲け主義」になってしまうことは否定できないものと思えます。

また、にぼしーさんが紹介されている猫p (id:nkobi1121) さんの
日々是、命懸け - 猫にそんなこと聞かないで。
という記事では、入院病棟の隔離室という「監禁」の現場での精神科医の現実が赤裸々に描かれており、医師としての精一杯に誠実な態度には頭が下がります。

ところで私は不当な長期拘束や長期入院には断固反対するけど、精神科の実態も知らず、拘束や入院自体を人権侵害だとか言ってくる人には「いちど精神科で働いてみ?」と言いたい。患者さんの状態によっては拘束しなきゃ死人が出てもおかしくないような時があるんだよ。

日々是、命懸け - 猫にそんなこと聞かないで。

猫p氏のこの言葉は、氏の修羅場での穏便な対応法と合わせて読むとき、決して間違っているとは言えないのですが、精神科の医療体制が、他科と比べても貧弱なものであり、その不十分な看護体制も相まって多量の薬剤による抑制が行なわれ(冒頭に挙げた記事での自閉症男性の「死亡事故」もこれに当てはまるように思われます)、安易な入院や隔離・拘束につながっているなではないかという疑問については、十分に答えてくれるものではありません。

また、島猫さんが、製薬会社から医師へのバックマージンを薬剤の過剰投与の原因として挙げていることについて、

いろいろな病院があるけど少なくとも私はどこの病院で働いても製薬会社からバックマージンをもらったこともなければ、上から特定の薬を使うように指導されたこともありません。

https://b.hatena.ne.jp/entry/4673396353481706242/comment/nkobi1121

と氏は書いています。

そのようなバックマージンははっきり分かる形では存在しないのかもしれませんが、現に保険点数の制度上、投薬が診療報酬に結びつくのですから、医師と製薬会社の利害関係が共通し、その二者からの働きかけによって国の政策が左右されることは否定できないものと考えます。

「日本の精神医療」は時代遅れで危険なのか?

さてぼくは、島猫さん、にぼしーさん、猫pさんのお三方のどの記事も、頭ごなしに否定するつもりはありません。

島猫さんの「日本の精神医療全否定」は行き過ぎだと思うけれど全体的な批判としては妥当なものだと思うし、にぼしーさんの「命をかけて仕事をいている医者もいる」というのは、事実の指摘としては大切なことだと思います。

また、猫pさんの現場の医師としての報告はまったく貴重なものです。

こうして三者三様の記事を読むとき、「日本全体の精神医療」というような大きなくくりでは、ひとまとめにできない現実というものを感じます。

現行の保険点数制度などを考えれば、「過剰な投薬が起きやすい」という指摘はできますが、日本全国で同じように精神薬の多剤・多量投与が行なわれているかといえば、これはおそらく違うでしょう。

近年では、多剤処方を制限するため、同種の薬剤の多数種投与時には診療報酬を下げる仕組みが設けられたこともあり、東京などの都市部では、以前と比べれば薬剤の多剤使用はかなり減っているように聞きます(東京の精神の作業所で働く知人より)。

一方、地方では副作用が大きいにも関わらず大量投与による抑制を優先する治療方針も強いと聞きます(愛知で障害者相談支援を行なっている知人より)。

また、地域による違い以上に個々の医院、病院、そして医師の一人ひとりによっても治療方針は変わってくるわけですから、最終的には「日本の精神医療」の全体が「時代遅れか、危険か」という視点よりは、

  • あなたが利用している医療体制は本当に安心できるものなのか、

ということを自分で確認していくが大切になるのではないでしょうか。

最初から医者を疑ってかかる必要はありませんが、医者の言うことだからといってなんでも鵜呑みにするのではなく、

  • 納得できないことはきちんと聞く、
  • そしてそれに答えてくれない医者については注意して様子を見る、

といった心がけも必要だと思うのです。

以上、今日は日本の精神医療について思うところを書きました。

質問などある場合、下記マシュマロのサイトから、匿名でお寄せいただけます。質問いただいた内容については、このサイトにてお返事いたします。

https://marshmallow-qa.com/tosibee

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