男女平等が行きすぎて、

  • 女も男もなんでも同じようにやらなければならない

というようなことを言う人がときどきいて、それは少しおかしな話に思えます。

女性と男性には、身体的にも、心理的にも大きな違いがあり、一般的に言って、女性が向く仕事や、男性が向く仕事、という区別がありうるからです。

もちろんこれは一般的な区別であって、「女性が向く仕事」に向く男性もいますし、その逆もありますから、「この仕事は女性のもの、この仕事は男性のもの」というような決めつけはよくありません。

また、「男性に比べて女性は劣っている」という偏見も根強く残っていますから、この点については、わたしたちはまだまだ認識を改める余地があるでしょう。

こうした男女問題や女性の社会参加の問題について、言葉によって論じることも大切なことですが、アニメというエンターテイメントの分野にもこのテーマを盛り込んだ作品があります。

今回は朝日新聞のこちらの記事
男女に差なんて、ない プリキュア生みの親、秘めた信念:朝日新聞デジタル
を参照させていただき、女の子に大人気アニメ「プリキュア」シリーズの初代プロデューサー・鷲尾天さんの言葉を紹介し、アニメに代表されるサブカルチャーと女性の社会参加の関係を肴に書いてみようと思います。

「女の子がりりしく、自分の足で地に立つことが一番」

現在、東映アニメーションの執行役員であり、プリキュアシリーズの初代プロデューサーである鷲尾天さんは、プリキュアという女の子向けのアニメ作品に込めた思いをこう語っています。

女の子がりりしく、自分たちの足で地に立つということが一番だと思って、プリキュアを作ってきました。子どものときには、意味がわからなくてもいいんです。テレビで見ていた女の子が成長して、思い返したときに「こういう意味だったのか」と気づいてもらえれば。

プリキュアシリーズは、2004年の「ふたりはプリキュア」で始まって以来、2018年現在放映中の「HUGっと!プリキュア 」に至る、大人気のアニメシリーズです。

このシリーズのお話は基本的に一年ごとに完結しますが、ごく普通の中学生の少女が、異世界からやってきた妖精に頼まれて「伝説の戦士プリキュア」に変身し、妖精の世界の支配し、地球を我がものとしようとする悪の組織を倒して、平和を取り戻すというパターンを持っています。

プリキュアに変身した少女たちは、悪の組織が送り込む怪物と戦ってやっつけます。

怪物の名前は、ザケンナー、ウザイナー、ジコチュー、サイアーク、オシマイダーなどなど。

人間の心に潜む黒い部分や、社会の矛盾をキャラクター化することによって、正義と悪の対峙という神話的なストーリーが展開されるのです。*1

プリキュアの戦闘には、男の子のキャラクターは参加しません。イケメンの男の子も登場するけれど、非力な存在です。女の子が主役で、自分たちで物事をとにかく突破することを見せたかった。どんなに巨大なものに立ち向かうときも、自分たちで解決する気持ちが一番大切だろうと思っていました。

平和な社会を破壊しようとする「悪の組織」に立ち向かい、男の力を借りずに、それを解決する少女たち。

この物語が若い世代の女性に与えつつあるインパクトには、計り知れないものがあるに違いありません。

こうして、アニメなどのサブカルチャーを通して、女性の自立、ひいてはさらなる女性の社会参加につながるような「意識の革命」が静かに進行しているのかもしれません。

企画書に書いたコンセプトは「女の子だって暴れたい!」

鷲尾天さんは、東映アニメーションに入る前は、秋田朝日放送で報道記者やドキュメンタリーの制作をしていました。

修業軌間を経てアニメのプロデューサーとなり、「金田一少年の事件簿」や「キン肉マンⅡ世」などの男の子向けの作品を手がけたあとで、鷲尾さんは、初めての原作なし・女の子向けの作品として「プリキュア」に取り組むことになります。

そして、「小さな子どもは、男の子も女の子も変わらない」という考えをもとに、その作品コンセプトを

  • 「女の子だって暴れたい!」

とし、ヒロインが変身して、「アクションによって悪役をやっつける」という、ユニークなアニメ・シリーズを生み出しました。

アニメーション監督を担当した西尾大介さんとの間では、「嫌な映像を作るのはやめよう」と話をし、 「食べ物の好き嫌いをする」とか、「親に口答えする」といったシーンは入れないようにしました。子どもが夢中になって見ているアニメ作品にそうした場面があれば、子どもにすり込まれてしまうと考えたからです。

男女の差についての話も決して盛り込まず、「女の子だから」「男の子だから」といったセリフも入れませんでした。

また、「親が『あの子は、これできてるじゃない』」というような場面もないのだそうです。「比較されること」は子どもが一番嫌がることだから、と鷲尾さんは説明します。

こうして作られた「プリキュア」シリーズは、3歳から8歳の女の子に絶大な人気を誇る長寿アニメ・シリーズとなりました。

このシリーズがこうして小学校低学年までの年齢層の女の子の心をつかんだことは、

  • 「小さな子どもは、男の子も女の子も変わらない」、
  • 「女の子だって暴れたい!」

という鷲尾さんの考えがずばり的中した結果に違いありません。

同時に、小学校高学年になってくると、生物的・社会的性差が広がってきて、女の子の関心が「戦い」から別のものに向かっていく様子も想像されます。

大人になっていくことで、女と男にはどんな違いが出てくるのか、そしてそこから生まれる社会的な役割分担について、ここで少し考えてみましょう。

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男は火星人、女は金星人

「男は火星人、女は金星人」というおもしろいタイトルの本があります。

これはアメリカのジョン・グレイという心理学者が書いた本で、「男と女の感じ方・考え方は、火星人と金星人ほどにも違うのだ」ということが述べられています。

男女がお互いに深く理解しあうためには、相手の感じ方・考え方をよく知っておいたほうがいい、という話です。

どうすれば恋愛がうまくいくか、という視点で書かれた本ではありますが、一般的な女性心理と男性心理の違いを知り、男女間のコミュニケーションをスムーズにするためにも、読んでおいて損がない本です。

さて、小学生も高学年になってくると、そろそろ思春期を迎え、生物的・社会的に性差が大きくなってきます。

女性と男性を集団として見たときに、感じ方・考え方・行動の仕方に大きな違いが出てくるわけです。

伝統的な社会では、この性差に基づいて、たとえば女性はうちを守るもの、男性はそとに出ていって働くもの、といった役割分担が行なわれてきました。

けれども、女性と男性の違いは、あくまで集団としての違いですから、個人個人を見れば、女性だけれども「そとに出て働くのが向く」人もいたし、男性だけれども「うちを守るのが向く」人もいたのは当たり前のことです。

現代の社会においては、女性がそとに出て働くのはまったく普通の光景になりました。

けれども、女性と男性の間には今も大きな賃金格差があり、偏見も根強く、女性が十分に力を発揮できる環境には程遠いのが現状でしょう。

女性と男性の間に、生物学的な違いがある以上、なんでもかんでも男女の別なく同じにすればいい、というものではないでしょうが、男女平等の原則を今以上に社会に行き渡らせることは、わたしたちが平和で幸せな社会を作っていく上で、重要なことに違いありません。

「男女平等社会」を作り出すサブカルチャーの力

プリキュア生みの親の鷲尾さんは1965年生まれ、アニメ監督を担当した西尾さんは1959年生まれ、いわば戦後民主主義の申し子です。

ぼくも同世代ですから、親の世代の伝統的価値観の影響も強く受けていますから、「男尊女卑」的考え方も無意識のうちに刷り込まれていることを実感するのですが、学校教育においては「男女平等」が当たり前とされる環境の中で育ちました。

こうした世代がメディアにおいても影響力を持つようになることで、今までは考えられなかった形で、子どもたちは「自立した女性」像を持つことになります。

世は安倍自民政権であり、戦前の壊れてしまった「伝統的秩序」を復活させようという動きが活発です。

しかし、新しい世代の若者たちは、必ずしも「古臭い」価値観にゴーサインを出しはしないでしょう。

アニメに代表される日本のサブカルチャーは、政府が旗を振るほどまでに世界に影響力を持つ「日本のお家芸」となりました。

女性の自立を描く女の子向けのアニメによって育った女性たちが、今社会に出始めています。

まだまだ伝統的な価値観が強い日本の社会の中で、彼女たちの未来にはたくさんの試練が待ち受けていることでしょう。

けれども、プリキュアによって「自立する女性の強さ」を知った女たちは、人間の心に潜む「悪」と果敢に対峙することによって、わたしたちの社会を変えていってくれるに違いありません。

プリキュアというすばらしいアニメ・シリーズを世に送り出してくれた、鷲尾天プロデューサー、西尾大輔監督をはじめとするすべてのスタッフのみなさんに大きな拍手を送って、この記事は終わりにします。

それではみなさん、ナマステジーっ♬

[追記] プリキュアの最近の作品についての疑問

はてなブックマークはてなブックマーク - 男女に差なんて、ない プリキュア生みの親、秘めた信念:朝日新聞デジタルのコメントにて、id:tamasoさんが次のように書いています。

  • 最近のプリキュアは、プリンセスや魔法つかいになったり、お菓子作りやケーキ屋さんとか子育てとかをやったり、なんか後退してるような気がして仕方がない。

ほかにも類似のコメントがあり、初代プロデューサーの思いとは「逆コース」の事態がすすんでいるのだなあと、思いました。

なんとも複雑な気持ちになりますが、アニメなどの作品から「女性や男性のステロタイプ」がなくなっていき、社会全体の女性と男性の関係が健全なものとなっていくことを祈ります。

☆紹介した記事と本

○ 「男女に差なんて、ない プリキュア生みの親、秘めた信念:朝日新聞デジタル

○ ジョン・グレイ「男は火星人、女は金星人」
(アメリカの心理学者が、男と女は「火星人と金星人ほどにも違う」ことを説明したユニークな本です)

*1:たとえばオシマイダーはブラック企業という社会的な話題を取り入れた怪物です。参照: https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%AA%E3%82%B7%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC