note.muの運営会社ピースオブケイクでユーザインタフェイスのデザインをなさっている深津貴之さんが、
・[お金持ちを、ほめよう!:title]
という記事を書いています。

一般の人々がお金持ちの行ないをほめることによって、お金持ちの方々が気持よく寄付できる環境を作ることができれば、もっと社会はよくなるのではないか、という主張です。

こうした考え方は確かに意味のあるものと思いますが、これが

  • お金持ちの行動を批判するべきではない、

という話になってしまうと、ちょっとおかしなことになりますので、その辺りを少し考えてみたいと思います。

人は褒められると嬉しくなるのは、確かにその通りです。

深津さんは、

  • お金持ちを「攻撃」すると、持てるものと持てないものの間に「対立構造」ができてしまい、お金持ちは「富の再分配」に同意したくなくなる

という意味のことを述べています。

逆に、

  • お金持ちを褒めて、名誉を与え、「好意」を送ることによって、お金持ちは機嫌よく「富の再分配」に同意する

というのです。

多くの場合、人間が「攻撃」よりも「好意」を受けることを好み、それによって態度を軟化させるのは、心理学的な事実といっていいでしょう。

ですから、人間のこの性質を利用して、

  • お金持ちが気分よく「富の再配分」をしたくなる仕組みを作ろう、

という深津さんの話には確かに一理あります。

そのために、

  • 再分配に対するインセンティブを与え、
  • 実行したお金持ちを褒め称える社会的空気を作り、

結果として

  • お金持ちが積極的に再分配する社会を実現する、

というのは、アイディアとしては悪くないですよね。

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けれども有能な経営者って、案外サイコパスですから、ちょっと例外なんですよね。

深津さんの主張は、社会全般に対して「富の再分配」のイメージを上げるという意味では有効なものだと思いますが、実際にそれが「持てるものと持てないものの対立構造」をゆるめ、「社会問題」の解決につながるかという点では、大いに疑問を感じます。

というのも、有能な経営者というものは、

  • おだてられてお金を配るようなお人好しではない

からです。

それどころか *本当に* 有能な経営者はむしろサイコパスであることも多く、普通の人間のような「感性」の持ち主ではないからこそ、ビジネスの世界で大きな成功をつかむことができるのです。
*1

現代社会において、巨大企業が圧倒的に大きな力を持っていることを考えれば、私たちが直面する「社会問題」の多くが、「サイコパス的な非人間性」から生じていることは、十分想像できることかと思います。

とすれば、
「褒めてあげれば、お金持ちが気持ちよく『富の再分配』に応じてくれるようになり、『社会問題』は解決していく」
というストーリーは、残念ながら楽観的にすぎて、現実味に乏しいものに思えます。

現実にアメリカのような「お金持ちの慈善事業が当たり前の国」でも、「対立構造」はなくなるどころか、むしろ激化しているように見受けられます。

社会のある局面を気持ち良いものにする、という意味では深津さんの意見は十分検討に値するものですし、そうした仕組みを実現することにはそれなりの意味はあると思いますが、「対立構造」の解消という点からは、限定的な影響にとどまるに違いありません。

「よいお金持ち」をほめるのは大切だけど、「わるいお金持ち」を批判するのも大切です。

深津さんのおっしゃる、

  • お金持ちを「攻撃」しても何も解決しない

という主張自体は、確かにその通りですし、大切なものだと思います。

とはいえ、現実に労働法規を無視して労働者から「搾取」する経営者がいるとき、それに対して労働者が「怒り」をぶつけることを否定することはできませんし、そうした「怒り」のすべてを「攻撃」であり、意味のないものだということはできないでしょう。

深津さんはコメント欄で、そうした「わるいお金持ち」の問題は分けて考えたほうがよい、と言っているわけですが、分けて考えるのであれば、「攻撃」とは別のものとして、

  • 「わるいお金持ち」に対する「批判」は必要である

ということも言っておく必要があります。

つまり、「よいお金持ち」をほめる仕組みも大切ですが、

  • 「わるいお金持ち」に対して
  • 「攻撃」するのではなく、
  • 建設的に「批判」し、
  • 労働者を「搾取」するような姿勢が自然とマイナス評価を受けるような仕組みを作っていく

ことこそ、「持てるものと持たざるもの」の「対立構造」を解消するために重要なことではないでしょうか。

深津さんの提案する「よいお金持ちをほめる仕組み」が、うまく実現することもまったく素晴らしいことですが、それ以上に「わるいお金持ちを批判する仕組み」も大切であることを結論として、この記事のしめくくりとします。

最後までお読みいただきありがとうございました。
それではみなさんナマステジーっ♬

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(いらすとやさんの画像を加工して利用させて頂いています)

*1:たとえば、The Disturbing Link Between Psychopathy And Leadership を参照のこと。