あなたの感情は何種類ありますか?

のっけから変な質問で恐縮ですけど。

日本では喜怒哀楽といいますから、四種類でいいですかね。

んっ、「感情なんて、そんなふうに数えられるわけないじゃないか」って?

それも言えてます。

なんと、今までの心理学では、「幸せ、悲しみ、怒り、驚き、おそれ、嫌悪」の六つ*1が、人間の基本感情とされていたのだそうです。

それに対して、今日紹介する研究では、

  • 被験者にビデオを見てもらい、沸き起こった感情を表現してもらったところ、
  • 連続的に変化しつつ重なりをもつ、27種類の基本的な感情の状態が見出された、

というんですね。

というわけで、この記事では、人間の心理について、経済学との関係も含めて、ぷち考察してみようかと思います。

(元記事はこちら、英語です。→Researchers Pinpoint 27 States of Emotion - Neuroscience News)

はじめに「感情」という言葉について一言

ところでみなさん、「性的欲求 sexual disire」って感情だと思いますか?

日本語で「感情」という場合、「気持ち」という言葉と大体意味が重なりますよね。

そうすると、「愛情 romance」は、相手を好きに思う気持ちですから「感情」ですけれど、「性的欲求≒相手を抱きたい」というのは、「欲求」や「欲望」であって、「感情」のうちには入らないのではないでしょうか?

今回紹介する論文のタイトルは、

Researchers Pinpoint 27 States of Emotion

というもので、「研究者グループ、感情の27種類の状態を特定」みたいな意味です。

それで、この emotion という言葉を「感情」としているわけですが、もう少し正確に言えば「情動」とすべきところです。
(「情動」=「感情+欲求」くらいの意味ですね)

ですが、この記事では馴染みやすさを優先して「感情」という言葉を使いますので、ここでは感情という言葉を「感情+欲求」くらいに読み替えてね、という話です。*2

で、感情が27種類って、どんなのがあるの?

さて、27種類もの感情を羅列して説明するのも退屈ですので、

  • 連続的に変化しつつ重なりをもつ

基本的な感情というものについて、例を上げて説明することにしましょう。
*3

下記ページを見ていただくと、27種類の感情とその重なり具合が大体わかるのですが、その左上には、「不安 anxiety 、おそれ fear 、ホラー horror 、嫌悪 disgust」が並んでいて、やや「グロい」ので苦手な方は要注意ですが、感情を説明する写真も入り、イメージはつかみやすいと思います。

https://s3-us-west-1.amazonaws.com/emogifs/map.html

(このページの図では、27の感情に A から Z と Ω の記号が割り当ててあり、図中の色がついてモヤモヤと見える部分は、拡大してみると、その記号が重なりあって表示されているのが分かります)

今まで基本とされてきた「幸せ、悲しみ、怒り、驚き、おそれ、嫌悪」と比べると、

「おそれ」と「嫌悪」に

「不安」と「ホラー」

が加わった形になりますが、この四つが連続的に変化し、重なりあうものだというのは、分かりやすいですよね。

たとえば、「おそれがあるから不安が生まれる」わけですし、
「ホラーな事態を嫌悪する」わけですから。

元記事では、「不安→おそれ→ホラー→嫌悪」という形で、この連続を表しています。

しかしながら、これは割と当たり前の話で、ちょっと考えれば、

  • 六つの感情では少なすぎる気がするし、
  • 27というのも、今回の研究ではそうなったってだけで、実験内容次第で変わるだろうし、
  • おまけに、これはあくまでアメリカの話であって、他の国では違うんじゃない?

というように、この結果がどれだけ有効かについては、かなり大きめの「はてな」がつくように思えます。

けれども、こうした内容について実際に研究がなされ、それが「なんとなくありがたいもの」であるかのようにネット上で流通していることには、それなりの理由があるはずですよね。

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27種の基本感情に訴えれば、キミの記事も大ヒット間違いなし - マーケティングや経営の技術としてもてはやされる心理学の話

さて、上の見出しの前半はただの「釣り」ですが、ネット上の記事を見てると、「感情」を扱った「マーケティング情報」って、たくさん目につきますよね。

そして、会社という組織を経営するときに不可欠な、人間関係の技術としての「感情」に関する情報もいくらでもあります。

こういった情報が溢れかえる背景の一つの要因として、アメリカにおける「行動経済学」の流行ということがあるようです。

古典的な経済学では、シンプルな数学的なモデルとして、

人間は「合理的選択」をするもの

ととらえて定式化していたのですが、現実にはそうとばかり言えません。

(というより、我々の多くは、感情に流されて、日々不合理な選択をしてるかも......)

そこで行動経済学では、

人間は合理性も重視するが、実際には感情によって大きく左右される

という事実を、その数学的なモデルに盛り込んだわけです。

そうして最近では、アメリカの政府がその政策決定に、こうした行動経済学の考えを取り入れている、というような話でして。

そんなわけですから、我々の生きる現代社会というものは、ある意味、

「合理性・論理性」の知識から「人間関係的・心理学的」の知識へ

というシフトが起きているとも言えますし、「人間関係」の知識のうちでも、

「感情の技術」が重視される時代

なのだ、ということもできるでしょう。

そうはいっても、

「27種類の感情を操って、素晴らしいコンテンツを作り、100万ページビューを稼ごう」

というわけには、なかなかいきませんが、企業や政府はこうした「科学的」知見を生かして、経済や政治のコントロールにはげむということなんでしょうね。

ノスタルジアに怒りが混ざる!? 人間の気持ちの「キミョーな二重性」について

さて、こちらのページの図をよくよく見ていたら、不思議な発見をしました。
https://s3-us-west-1.amazonaws.com/emogifs/map.html

右端の中ほどを拡大した画像がこちらです。

f:id:suganokei:20170912010729j:plain

画像下半分に、感情の種類を表す英文字が重なって表示されているのですが、大半は「ノスタルジア(郷愁) nostalgia」を示す U です。

下の方に D がちらほら見えるのは、「おもしろさ amusement」なので、クマのプーさんの動画を見たのなら、分かります。

不思議に思ったのは、左に離れて見える E なんですよ。

ノスタルジアに混ざるような感情ってなんだろうな、と思って調べたら、これが

「怒り anger」

なんですね。

「ノスタルジアに怒りが???」って感じです。

それで「もうちょっとなんかヒントがないかな」と思って見ていたら、「怒り」の小島の右手に I の記号を発見、これは「退屈 boredom」です。

謎が解けました。

「『クマのプーさん』のような動画は、退屈きわまり上、怒りすら湧いてくる人もいる」

ってことでしょうね。

で、この場合は多分、「ノスタルジア」を感じながら「怒り」も同時に感じる人ってのは、まあ、いないと思うのですが、

「喜び」と「悲しみ」とか

「怒り」と「悲しみ」とか

だったら、同時に感じることもありますよね。

それは例えば、

  • 恋人と再会できて嬉しいから「喜び」を感じ、同時に、恋人と離れ離れになっていたときの「悲しみ」を思い起こすのだったり、
  • 傷つけられた相手に「怒り」を感じると同時に、傷つけられたことに「悲しみ」を感じる、

というようなことだったりするのだと思うのですが、こうした「二重性」(あるいは多重性もある?)まで考えると、人間の感情というものは、実に神秘的なものだなぁ、という気すらしてきます。

考えてみれば、「ノスタルジアと怒り」についても、

失われてしまった平和な子ども時代に対して「ノスタルジア」を感じると同時に、それを壊した誰かに対して「怒り」を感じる、

というようなことはありえますよね。

以上、紹介した研究の内容と直接は関係ありませんが、人間の持つ感情というものについて、その幅広さに思いを馳せることになり、なかなかいい刺激をもらったなと感じています。

ちなみに今回この研究を知ったのは、稲垣 諭氏のツイッターからです。
https://twitter.com/inaphenomeneuro/status/907049942870515712

哲学が専門の方で、荒川修作氏の天命反転住宅についてのツイートもあり、なかなかおもしろい方とお見受けします。
https://twitter.com/inaphenomeneuro/status/907139938151366656

というようなところで、今日はおしまいです。
それでは、みなさん、ナマステジーっ♬

☆こちらの記事には「感情7種類説」も書いてますので、ご覧ください。
これなら気楽に生きられます。感情の種類を知って、上手にコントロールしよう - *魂の次元*

*1:もとの英語は、順に、happiness, sadness, anger, surprise, fear and disgust です。けどこれって、アメリカ合州国界隈の話ですかね?

*2:神経科学者のアントニオ・ダマシオは、「情動 emotion」は肉体的な反応であり、「感情 feeling」は情動を解釈することによって生まれる心理的な反応である、として両者をはっきり区別しています

*3:27種類に何が入ってるのか、どうしても気になる方はこちらの図をご覧ください。英語な上ちょっと見づらいですが、すみからすみまで探せば全部見つかります。https://s3-us-west-1.amazonaws.com/emogifs/manifoldbg.svg 〈追記〉日本語でリスト化しました。賞賛 admiration 、熱狂 adoration 、美的満足 aesthetic appreciation、(自分の体験する)おもしろさ amusement 、怒り anger 、不安 anxiety 、畏怖 awe 、とまどい awkwardness 、退屈 boredom 、落ち着き calmness 、混乱 confusion 、欲望 craving 、嫌悪 disgust 、痛み pain 、(観客としての)おもしろさ entertainment 、興奮 excitement 、おそれ fear 、ホラー horror 、興味深さ interest 、楽しさ joy 、ノスタルジア/郷愁 nostalgia 、安心 relief 、愛情 romance 、悲しさ sadness 、満足 satisfaction 、性的欲求 sexual disire 、驚き surprise で全27種類です。