人類の過去と未来を「サピエンス全史」「ホモ・デウス」の二冊で書き切ったイスラエル人の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が、毎日二時間の瞑想を欠かさないヴィパッサナー瞑想の実践者であることはご存知でしょうか。

この記事ではハラリ氏の体験と言葉を通して、ヴィパッサナー瞑想の持つ大きな可能性を紹介します。

瞑想は迷信? それともカルト?

ハラリ氏はもともとは瞑想に関心はなく、迷信かカルトだと考えていました。

それが変わったのは、オクスフォード大学で博士課程の勉強をしていたときのことです。

中のよい友だちにヴィパッサナー瞑想をすすめられたのですが、初めは断っていました。けれど一年にも渡ってすすめてくれるので、試しにやってみたのだそうです。

すると彼が受けた瞑想のコースにはまったく神秘主義的な要素がなく、まったく実際的な指示があるだけなのでとても驚いてしまったのだそうです。

その瞑想のやり方はどんなもので、どんな効果があったのでしょうか。

瞑想で身につく第一の力は「注意力」

ハラリ氏は、ヴィパッサナー瞑想に出会っていなかったら、「サピエンス全史」を書くことはなく、今でも中世の軍隊の歴史を研究するだけで精一杯だったろうと語っています。

その彼が、瞑想によって身につく第一の力として上げているのが「注意力」です。

ハラリ氏が実践している瞑想法では、まず自分の呼吸に意識の焦点を当てる練習をします。

そして呼吸に意識を向けることに慣れたら、次に全身の感覚を頭のてっぺんから足のつま先まで順番に観察していきます。

こうして呼吸と体の感覚を対象にして観察を続けることで、意識の焦点をコントロールする力を養い、注意力を高めることになるのです。

呼吸のように身近で分かりやすいものに対して焦点を当てる練習を続けることによって、もっと重要なものに焦点を当てることができるようになるのだと言います。

歴史を研究するとき、無数のディテールの中で何が大切なのかを常に意識し続けるのは難しいことです。あるいは、現代社会について考えるとき、日々起こり続ける膨大な事件の中で何が重要かを判断するのも簡単ではありません。

溢れ返る情報の中で迷子にならず、大切なことがらにきちんと焦点を当て続ける技術を養うために、瞑想は非常に役立っているのだとハラリ氏は言っています。

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二つ目は、物語と現実を見分ける力

瞑想によって身につくもうひとつの大きな力が、物語と現実を見分ける力です。

人間が現実だと思っているもののうち、99%までが心が作り上げたお話にすぎないのだとハラリ氏は言います。

ハラリ氏が実践しているゴエンカ式のヴィパッサナー瞑想では、基本的に呼吸と体の感覚を観察することしかしません。

そうして自分自身の感覚を見続けることによって、不快感や怒りなどの感情も体の感覚としてとらえられることを経験を通して学びます。

そうして感覚にもとづいて自分の心の動きを確かめられるようになると、この世界について自分が現実だと思っていたことの多くが、実際には物語でありフィクションでしかなかったことが分かってくるのです。

わたしたちの人間のほとんどが、宗教的な物語やナショナリズムの物語、あるいは流行りの経済の物語などに飲み込まれ、それが現実であると錯覚してしまいます。

その錯覚に気がつき、現実をありのままに見るために、ヴィパッサナー瞑想が役に立つというわけです。

そしてハラリ氏は、自分の歴史家としての仕事は、人類が数千年に渡る歴史を通して作り出してきた物語と現実との違いを明らかにすることにあるのだと言うのです。

21世紀で一番重要な資源は「注意力」である

意識の焦点をどこに向けるかをコントロールすることこそが瞑想の技術であるとハラリ氏は考えています。

この「注意力(attention)」をきちんと重要なものに向けなければなりません。何が重要かといえば、現実こそが重要なものです。

そして現実の中でも分かりやすい呼吸から始めることで、間違いなく注意力を養い、物語と現実を見分ける力をつけることができるのです。

言葉によるコミュニケーションを身につけ、やがて書物を生み出し、新聞やテレビというマスメディアが発達し、インターネットが登場しスマートフォンが普及することによって、わたしたちの注意力は「社会的な物語」に吸い寄せられ、呑み込まれてしまうようになりました。

この「注意力」という有限な資源をメディアとテクノロジーに無条件に手渡してしまうことなく、自分できちんと手綱を取ることは、あなたが人生をよく生きるために大きな意味を持つはずです。

「注意力」を自分でしっかりコントロールし、社会が作り出す「巨大な物語」とは距離を取って、感情的になることなく、現実をありのままに見ることは極めて難しいことです。

この難事業をやり遂げるためにヴィパッサナー瞑想は大いに役立ってくれるはずです。

ハラリ氏の瞑想実践は、毎日二時間、毎年30-60日の長期コースも

ハラリ氏が実践するゴエンカ式のヴィパッサナー瞑想は、初めての人でも朝から晩まで座りっぱなしで、10日間の合宿期間中、先生への質問以外は無言で、夕方一時間の講話を聞く以外は、読み書きもできないという、かなりシリアスなコースです。(外部との連絡も緊急時以外はできません)

ゴエンカ式の実践者は、朝と晩にそれぞれ一時間の瞑想をするようにすすめられており、ハラリ氏も2000年に初めてコースを受講して以来ずった続けているとのことです。

また、ゴエンカ式では、初心者向けの10日コース以外に、20日・
30日・45日・60日と中級者以上のための長期コースもあり、ハラリ氏は30日以上の長いコースを毎年受けているとのことです。

アシスタント・ティーチャーとしてコースを指導する資格も持っているハラリ氏は別格ですが、この記事を読んでもしあなたが興味を持たれたならば、まずは次の本を読んでいただけたらと思います。

☆ウィリアム・ハート「ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門―豊かな人生の技法」(1999 春秋社)
https://amzn.to/2WUzo9l

今回の記事ではヴィパッサナー瞑想の効果と簡単なやり方についてしか書きませんでしたが、この本をよめば背景となる仏教的な世界観が分かり、輪廻や涅槃といった宗教的な概念を除けば、瞑想法自体は極めて合理的なものであることが理解できるはずです。

またゴエンカ式の瞑想コースは日本では京都と千葉で受けることができます。(コースは実践者の寄付によってボランティア運営されており、コース参加は基本的に無料)
詳しくはこちらのページをご覧ください。

☆日本ヴィパッサナー協会ホームページ
https://www.jp.dhamma.org/ja/

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※参照ページ
https://www.vogue.in/content/yuval-noah-harari-on-how-vipassana-shaped-his-success-story
https://www.thejakartapost.com/life/2018/07/20/yuval-noah-harari-21-lessons-from-data-meditation-to-ai-and-black-mirror.html
https://www.vox.com/2017/2/28/14745596/yuval-harari-sapiens-interview-meditation-ezra-klein

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