「科学至上主義」のみなさんは、どうしてEM菌がそんなに嫌いなんですかね?
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・「差別」「EM菌」「牛乳の有害性」についての記事を宣伝してくださっているみなさまへ、感謝の言葉とお願い、そしてご説明 - *魂の次元*
[2018.11.26] 片瀬久美子氏の名誉毀損訴訟に関連して、氏の「科学者にあるまじき非科学性」について追記いたしました。
みなさん、こんにちわ。
「科学至上主義」な立場から、
- 学校教育においてはEM菌を使用するべきでない、
という主張がネット上で散見されるため、今日はそのことについて考えてみようと思います。
結論としては、
- EM菌の効果が証明されていないからと言って、水質浄化問題に関する限りは、そんなに目くじら立てなくていいんじゃないの?
ということになります。
なお、EM菌などの「疑似科学批判」を「趣味」や「生きがい」となさっている方に対して、それをやめろ、とか、そういう立場はおかしい、とか言っているわけではなく、もう少し大らかに受け止める立場があってもいいよね、という一般的な論を述べているだけのことですので、そこのところをご理解いただければ幸いです。
- そもそもEM菌って何なの?
- なんで学校教育にEM菌を使っちゃダメなの?
- 自分が理解できないものを頭ごなしに否定することの非科学性について
- 〈2017/11/27 追記〉EM菌に水質改善効果ありとする研究結果と、タイトルについてのお詫び
- 片瀬久美子氏の名誉毀損訴訟に関する追記
そもそもEM菌って何なの?
有用微生物群という名の、得体の知れない謎の物質
EM菌とは、名桜大学の教授であり、農学博士の比嘉照夫さんが命名した「Effective Microorganisms 有用微生物群」から頭文字を取った商標であり、複数の微生物を含む発酵物質です。
これは二十年ほど前から、生ゴミなどを堆肥化するために使われていたもので、有機農業などに興味がある方なら、ご存知の方も多いでしょう。
さて、この節の見出しに「得体の知れない謎の物質」などと書きましたが、それには多少の理由があります。
というのは、もともとは「生ゴミの堆肥化にとっても便利」というような唱い文句で知られていたEM菌が、
- 水質浄化に役立つ、とか
- 「万病」に効く
とか、いろいろな「尾ひれ」がつくように、いつの間にかなってしまっているんですね。
「堆肥を作るのに役立つ微生物群」ならば、なんの問題もなかったのですが、「『万病』に効く謎の物質」となると、
「ちょっとそれはおかしいんじゃない?」
という声が上がるのも、無理はないですよね。
開発者の比嘉照夫さんが、なんとも擬似科学的であることについて
ここで「科学至上主義」のみなさんからの突っ込みどころとなるのが、EM菌の開発者である比嘉輝夫さんの「疑似科学」っぷりです。
比嘉さんは、EM菌にどのような微生物が含まれているかを明らかにすることには関心がありません。
ですから、EM菌は現状「謎の物質」です。
その上、EM菌が
- 免疫力を高めたり
- 化学物質や放射線や電磁波を無害化したり、
- 体内の重金属や化学物質( ダイオキシン等)を体外に排出したり
すると主張しており、しかもその説明に「重力波」を持ち出すという、現時点での科学的知見から言えば、
「それ、説明になってないよ!」
としか言いようのない説明をしているのです。
というわけで、普通に科学的にものを考えるみなさんが、「比嘉さん、それはおかしいでしょ」と言うのは分かりますし、そこから、「EM菌あやしすぎ」という結論に飛びつく人が多かろうことは、容易に推察されるというものです。
EM菌は水質浄化に効果があるのか?
さて、比嘉さんの主張が「全体的」に見て、キミョーなものであることは、まったくその通りなのですが、ここで一つ考えておく必要があるのは、
- EM菌に水質浄化作用があるのかどうか
という問題です。
というのも、科学至上主義的立場からEM菌を批判することが始まったのは、朝日新聞が「水質浄化」との関連で、学校教育での使用を批判する報道を行なったことに端を発しているからです。
(この点については厳密な確認はしていませんので、もし事実誤認があれば、ご指摘いただければ幸いです。)
朝日新聞の記事は、「効果疑問のEM」という表現で報道していますが、その内容は「効果が疑問だからEMは使うべきでない」という結論ありきのものであり、「効果を検証すべき」という科学的態度からは遠いもののように思えます。
(この件に関する朝日新聞の取材・報道の姿勢については、こちらの記事をご覧ください。
・[DNDメルマガ]vol.469 朝日のEM批判記事検証:青森からの現地報告
なお、上記記事については、次のように批判する記事もあり、批判の内容自体はもっともな点も多いのですが、肝心の「朝日新聞の報道姿勢」及び「EM菌の水質浄化作用」については述べられておらず、片手落ちで的外れな「ためにする議論」だな、という印象です。
・朝日新聞によるEM批判記事、への反論記事について検討する - Interdisciplinary
)
朝日新聞の記事は、
「EM菌」という微生物を川の水質浄化に用いる環境教育が、青森県内の学校に広がっている。普及団体は独自理論に基づく効果を主張するが、科学的には効果を疑問視する報告が多い。県は、効果を十分検証しないまま、学校に無償提供して利用を後押ししている。あいまいな効果を「事実」と教える教育に、批判の声も上がっている。
【魚拓】朝日新聞デジタル:「水質浄化」EM菌効果 検証せぬまま授業 青森 - 社会
としており、県行政が無償提供していることや、『あいまいな効果を「事実」と教える教育』には確かに問題があるでしょう。
けれども、「水質浄化に効果があるかどうか」はこれとは別に論じる必要があります。
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なんで学校教育にEM菌を使っちゃダメなの?
それは日本の学校教育が子どもたちの「考える力」を奪っている現実があるから
ここで話は、少し横道に逸れます。
こちらの記事で、EM菌を使った小学校の授業風景が紹介されています。
・http://ayukaisyou.exblog.jp/27370459/
EM菌というものが、「無害無益」なものであるのならば、こうした光景はただ「牧歌的」なものでしかなく、目くじらを立てて批判する必要は、とりあえずないでしょう。
けれども、「教育」という名のもとに、「教師が提示したもの(この場合は、それがたまたまEM菌なのですが)」の価値を、子どもたちに刷り込むことが、日本では当たり前のこととして、なんら疑問も持たれないことを考えると、そこには大きな問題が浮かび上がってきます。
子どもたちは、教師の言うことをただ丸ごと飲み込むことを要求され、そこには考える余地もなければ、ましてや批判的な見方を育むことなど夢のまた夢でしょう。
EM菌にどのような効果があるのか、あるいはないのか、といった「考える力」を身につけるための授業は、可能性としてはありうるのですが、そうした授業が実質的に日本では存在しえないことこそが問題なのであり、EM菌を授業に取り入れるかどうかなどという問題は、それに比べれば取るに足らないものにぼくには思えるのです。
問題はむしろ「科学」とは関係のない、行政と業者の癒着にある
一方、上記のような科学的な立場からの議論とは別に、行政と業者の癒着の問題が示唆されており、この点からは、安易にEM菌の宣伝となるような授業をすることは問題であるとしか言いようがありません。
(青森県の板柳町では)
【魚拓】朝日新聞デジタル:効果疑問のEM菌 県内3町が奨励-マイタウン青森
2009年度からは3年間、リンゴ栽培などでの効果検証を県内のEM販売業者に委託し、3813万円を支出。業者の報告書は、EM菌で作った発酵肥料を使ったリンゴの「糖度が上がった」などとしている。
だが、EM菌の効果検証の経験がある後藤逸男・東京農業大教授は、この報告書について「条件の同じ畑で、EM菌を使った場合と使わなかった場合でどう違うか、という比較ができていない。科学的検証としては無効」と指摘する。
というのですが、EM菌の販売業者に効果検証を委託って、どう考えてもおかしいですよね。
(原発関連でも同様なことが行なわれてますから、そっちをまず問題にしたいところですけど)
自分が理解できないものを頭ごなしに否定することの非科学性について
さて、最後に「水質浄化作用」についての「科学」の問題に戻ります。
水質浄化の効果についても、否定する報告が多い。
【魚拓】朝日新聞デジタル:「水質浄化」EM菌効果 検証せぬまま授業 青森 - 社会
岡山県環境保健センターは1997年度、EM菌は水質浄化に「良好な影響を与えない」と報告。実験用の浄化槽にEM菌を加えて600日間観察したが、EM菌のない浄化槽と同じ能力だった。広島県も03年、同様の報告をしている。
三重県の05年の報告は、海底の泥の浄化に「一定の効果があると推定」した。湾内2カ所の実験で、1カ所で泥中の化学的酸素要求量(COD)が減少したためだ。だが、水質に関しては効果がなかった。
岡山県の検証に参加した職員は「川や池でも試したが効果はなかった。EM菌が効く場合が全くないとは言い切れないが、どこでも効果が期待できるようなものではない」と指摘する。
と朝日新聞の記事にあるのですが、「水質浄化の効果についても、否定する報告が多い」ということと、「水質浄化の効果は否定された」ということはまったく違います。
あくまでも、「水質浄化の効果が明らかでない」というだけのことです。
ぼくは「EM菌には水質浄化作用があるかもしれない」と思っていますから、その立場で学校教育にEM菌を取り入れることは、当然オーケーだと思います。
けれど、「EM菌には水質浄化作用がある」というのは「仮説」にすぎませんから、学校教育の場では、当然この点についてきちんと明らかにすべきでしょう。
また、効果が明らかではないわけですから、公費を使ってEM菌を大々的に培養するなどということは、するべきではないでしょう。
しかし、同時に「EM菌には水質浄化作用はない」というのも「仮説」にすぎないのですから、
- それを理由に「学校教育ではEM菌を用いるべきでない」ということはできない
と考えます。
以上のことを、口語的にまとめると、
- EM菌の効果が証明されていないからと言って、水質浄化問題に関する限りは、そんなに目くじら立てなくていいんじゃないの?
ということになるわけです。
(ここで「水質浄化問題に限る」のは、医療上の効果や、放射性物質対策として使うとなれば、また別の問題が出てくるからで、そうした側面についてはこの記事では扱いません)
てなわけで、長い記事に最後までおつき合いいただきありがとさんでした。
それでは、みなさん、ナマステジーっ♬
〈2017/11/27 追記〉EM菌に水質改善効果ありとする研究結果と、タイトルについてのお詫び
たとえば、韓国の研究者によりEM菌に水質改善が報告されてます
・EM水質浄化関連論文(3):湾に堆積した汚染ヘドロのバイオレメディエーションにおける有用微生物(EM菌)の機能(Functions of effective microorganisms in bioremediation of the contaminated harbor sediments) | EM(微生物)の力で環境を守る
上の記事で紹介されている記事では、EM団子の一種によるヘドロ浄化が報告されています。
日本では「EM菌には水質浄化の効果はない」とする論調が多数派のようですが、そうした主張の方々は、少なからぬ海外からのこうした報告をいかがお考えなのでしょうか?
EM菌に限らず、また科学的な認識に関わらず、日本でのガラパゴス化の蔓延を危惧する次第です。
タイトルの「科学至上主義」を今後は「科学重視主義」とします
この記事では「科学を過度に尊重する」という意味で、「科学至上主義」という言葉を使いました。
また、他の記事では「至上」の代わりに「万能」「原理」という言葉も使いましたが、いずれも否定的なニュアンスを含むため、読者のみなさまによっては不愉快な印象を受けたことと思います。
この点についてお詫びするとともに、今後の記事では「科学重視主義」という用語を使いたいと思いますので、ご了承ください。
以上。
片瀬久美子氏の名誉毀損訴訟に関する追記
この項の要旨:
- 本当の科学者は、「現在科学的に正しいとされていること(これをこの項では「事実」と呼ぶ)」と、仮説とを分けて論を立てるべきである。
- 片瀬氏は、自分の仮説を事実と混同して論を立てている。
- したがって片瀬氏の「ニセ科学批判」は科学の名に値しない。
- 安易にEM菌を環境教育に導入しないほうがいい、という点では片瀬氏の意見ももっともなものである。
サイエンス・ライターの片瀬久美子氏が、
・ニセ科学批判をする覚悟 - warbler’s diary
という記事で、氏がEM菌をニセ科学として批判したことに端を発する名誉毀損訴訟に関連して、
ニセ科学批判を本格的にするには、(相手が相手だけに)自分が泥水をかぶる覚悟でやらないとできません。
とおっしゃっているのを見て、正義感から「ニセ科学批判」を始めたところが、大変な泥沼にはまることになって
- まったくご苦労なことだなー、
と思わざるを得ません。
EM菌の水質浄化問題だけに、泥水で泥沼か、と笑ってすませたいところですが、片瀬氏の言論があまりに感情論的にすぎて、科学の名に値しない部分については見過ごしにしづらい気もして、少し追記することにします。
片瀬氏のこちらの記事
・裁判所はこう判断した - warbler’s diary
を見ると、ご自分の
「米のとぎ汁乳酸菌」もその1つでしょう。普通だったら、米のとぎ汁を放置して腐った液体なんかを、まるで救世主の様に一般の主婦達がありがたがるなんてことは考えがたいことです。
東京や大阪での放射線のリスクと「腐り汁」をそのまま飲むリスクを比べて、「腐り汁」の方がずっと安全だと思う人達がそんなに多いとしたら、低線量放射線のリスクを過大視して主張している人達の失敗かもしれない。子ども達をもっと危険な目にあわせようとしている。
「こども達を守ろう」と思うなら、積極的に「腐り汁」なんて飲ますんじゃない!!!
というツイートを掲載してらっしゃいます。
片瀬氏は、この発言が裁判で、訴訟相手を揶揄したもの判断されたことにご不満で、
これらは健康被害を生じる恐れのある行為に対する正当な論評と言い得る
と述べていらっしゃいますが、片瀬氏の個人的な意見としては「正当」なものかもしれませんが、科学者としての「論評」とは到底言いがたい、主観まみれの感情的な主張でしかありません。
もう少し好意的に言っても、ご自分の感情をベースにした「仮説」にすぎず、事実にもとづいたものとは言えません。
お米を水につけた状態で少しの炊いたご飯を加え、乳酸発酵させることで酵母菌発酵を助けるモトを作る技術は、どぶろくを酵母添加せずに作る際に有用な伝統的な方法です。
こうした伝統的な微生物発酵の手法も知らないまま、「ネット上に流れる怪しい話だから」という理由なのでしょうか、きちんとした科学的な検討をしないままで、
- 「乳酸発酵させた米のとぎ汁は、腐っていて有害である」
と仮説を事実であるかのように述べるのは、科学者の持つべき「真実を探求する態度」とまったく矛盾しています。
氏は、EMだんごやEM発酵とぎ汁の河川などへの投入についても、それがどの程度環境汚染になりうるかの定量的な分析を欠いたまま、
https://synodos.jp/science/15275/2
- 微生物資材による培養液に含まれる高濃度の有機物は、河川などにとって汚濁源になってしまうと考えるほうが素直な考え方です。
という福島県生活環境部水・大気環境課の説明*1を持ち出して、だからEM菌を河川などに投入するな、というのですが、
- 「素直な考え方」では分からないことがあるからこそ、科学が必要なのだ
ということが、まったく分かっていないとしか言いようがありません。
片瀬氏は生物学系で博士号まで取っていらっしゃる方ですが、以上見てきたように、こと「ニセ科学批判」に関しては、単純な感情論でしかないものを、言葉のレベルで取り繕って「科学的論評」に見せかけているだけの「科学重視主義者*2」でしかないのは明らかですから、この方の「ニセ科学批判」については、これ以上検討する必要はないでしょう。
なお、最後に改めて述べておますが、わたしはEM菌の水質浄化に関する有用性も含め、EM菌の効果については態度を保留しています。
効果はあるのかもしれないし、ないのかもしれない。現時点でははっきりしない、というのがわたしの個人的な意見です。
そのとき、
- 効果のはっきりしないものを、「効果があるのだ」と強弁して環境教育に取り入れることはやめたほうがいい、
というのが片瀬氏の言いたいことなのだとすれば、それについては異論はありません。
青森での事例などを聞き及ぶところでは、学校のプールの清掃などには EM菌が役立ちそうだと思うのですが、業者と行政のおかしな癒着を防ぐためにも、それについてはきちんと科学的に検証してから取り入れたほうがいいだろうなと考える次第です。
[この項、2018.11.26 追記]
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