ジェフリー・K・ザイグ、W・マイケル・ムニオン「ミルトン・エリクソン―その生涯と治療技法」

理論にもとづいたいかなる心理療法も誤っていると思います。
なぜなら、人はみなそれぞれ違うのですから。(ミルトン・エリクソン)


前項でもちらりと触れた精神療法家ミルトン・エリクソンに関する本である。
上にも引用した通り、根源的(ラディカル)な物言いをする人だ。


ぼくの理解ではエリクソンは、カスタネダとレインの間にぴたりとはまる。
催眠の研究で名を成し、治療技法を理論化せず、一人一人にあつらえた形で
実践し、その方法論を伝えることで、この世界に積極的な生き方を残して
いった人だと感じる。


カスタネダは呪術指向なので、ややもすればうさんくさく見られる。
レインは社会に対する見方が絶望的過ぎるきらいがある。
この二人をつなぐ、科学的でありながら、人間の社会性を見据えた、
しかも生きることに積極的エリクソンが面白い輝きで見えてくる。


エリクソンは、17歳のときポリオを患い、聴力と視力以外のほとんどすべてを
失うことになる。そこから立ち直った彼は、人間の生命力とは何かを痛いほど
実感したことだろう。そして、その力強い生命力を伝えていくことに人生の
一つの意義を見出したにちがいない。


彼から学ぶべきことは多いと感じるが、はてさて私のようなチャランポランな
人間にどれほどのことができるのやら?