フロリンダ・ドナー「魔女の夢」近藤純夫訳、日本教文社1987
この本は、カスタネダのお仲間である女性人類学者フロリンダ・ドナーが、
ベネズエラで女治療師のもとに住み込むことになり、その経験を縦糸に、
そして、その女治療師のところに訪れる「患者」から聞くエピソードを
横糸に紡がれた物語である。
ここには、人間が他の人間ににどういう影響を与えうるのか、ということが鮮やかに
描かれている。
カスタネダの著作より文芸的な完成度は高く、ホルヘ・ルイス・ボルヘスや、ガルシア=マルケスにも近い、南米のねっとりとした人間関係が感じられて面白い。
あいにく絶版のようで入手は困難だが、図書館で探してでも読んでほしい本である。
フロリンダ・ドナー「魔女の夢」近藤純夫訳、日本教文社1987
☆なお、フロリンダ・ドナーの「シャボノ」というアマゾンの奥地に住む先住民族ヤノマミの暮らしを描いた作品があり、ヤノマミの人々の原初的・魔法的な世界観が、すばらしい筆致で心動かされる物語として紹介されている。冒頭の一部の私訳を公開しているので、よろしければご一読を。
http://meratade.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html
湊由美子「ゆみペンギン南の島で」東京図書出版会 2008
ゆみペンギンこと湊由美子さんはタイの島サムイでダイビングショップを
経営している京都出身の女性である。
この本はそんなゆみペンギンさんのダイビングインストラクター修業時代の
記録である。
ヴァヌアツ共和国エスプリッツ・サント島での、
水深40m以上の沈没船ダイブと、
サメに襲われても続行する、サメの餌付けダイブ。
この二つはダイビング本としてのこの本のハイライトである。
危険というものが商品になってしまう現代社会の不可思議さを感じる。
ダイビングインストラクター修業時代の記録と書いたが、ダイビングにまつわる
エピソードは、上のヴァヌアツの話でほとんどで、あとはニュージーランドでの
語学留学の様子と、そのあとのニュージーランド、オーストラリア、そして
タヒチ、ニューカレドニアを巡る旅の記録であり、そう言う意味ではよくある
旅日記の形式でしかない。
しかし、中身はおもしろい。
一つにはゆみペンギンさんがあまり下調べをせずに状況の中に飛び込んでいく
ために起こるハプニングからくるものだろう。
羊を飼っている牧場でファームステイをしたいと思い、情報誌でようやく
受け入れてくれる牧場を見つけ、やっとのことでその牧場に辿りつく。
ところが、そこで待っていたのは牧場の仕事ではなく、なまけものの主婦が
散らかし邦題にしている家の片付けと掃除だった...
そして、こうしたハプニングに対するゆみペンギンさんの、これはまいった!
と思いつつも健気に大らかに向き合っていく、その姿勢がすがすがしくも
気持ちよい。
笑えるエピソードがいっぱいで、その前向きな生き方からは毎日を生きる力を
分けてもらえること間違いなしの、旅好きの人には是非おすすめの一冊です。
なお、ゆみペンギンさんのやっているペンギンダイバーズのホームページは
こちらです。
プロセスカマキリ氏の
http://processkamakiri.blog109.fc2.com/blog-entry-231.html
とも重なる気がするところで、ぼくの最近のプロセスワークに対する印象を書いてみる。
先日、ミンデル夫妻の来日にあわせて開かれたロータスミーティングに参加したのだが、
当日までどうしようか迷っていたにもかかわらず、結局参加することにしたのは、
popj*1 の主催者である h 氏に会ってみたいと思ったことが大きい。
ロータスミーティングで検索すると車のロータスのほうが出てきてしまうのが笑える。
が、それはともあれ、こちらのほうは
「蓮の花
水面で美しく咲くその花も
水面下で根で繋がっている。
時にそよぐ風で、花同士がぶつかることも
水がよどみ根が見えなくとも
深いところで繋がっている」(オオバ キク)
というようなことらしく、まずは仏教的で美しいイメージである。
ユング派から派生してきたプロセスワークであるからして、その集まりの名前にこれは
なかなか良いと思うのだが、どこか看板倒れに思うのは、わたしの意地悪さのせいか...
popj を見ていても似たものを感じるのだが、そんなふうに思ってしまう一つの理由として、
安全さを優先するあまり、公式的な見解に終始したり、異物に対して無視ないし傍観を
決め込んだり、なにかそういった印象がぼくの中に浮かんでくるということがある。
そのへんが、プロセスカマキリ氏の「一定の行動を期待されている」とか「権威として
君臨」とかいうことと、どう重なり合うのかは定かでないのだが、けれど、ある無意識的な
部分としては...
それがなんなのかはよく分らないのだけれど、すくなくとも今ぼくが見ている範囲で、
日本のプロセスワーク関連の世界には、ある種の抑圧ないし規制が存在するように感じられるので、
せっかく面白い人が集まって、面白いことをやってるのに、なんかもったいないなぁと、
野次馬ながら思ってしまう、
どうも、今日のところは、そんな話になるようであります、はい。
なお、アーノルド・ミンデルのプロセスワークについて知りたい方には、まずは
「うしろ向きに馬に乗る」をお薦めします。
[追記]
初めて会った h 氏はなかなかおもろい人だった : -)
*1:http://groups.yahoo.co.jp/group/popj/
ホルヘ・ルイス・ボルヘス「砂の本」篠田一士訳、集英社文庫1995
話す言葉が文字によって表されることの不思議さ。
子どもの頃からぼくはそういうものに心を魅かれていたようだ。
そんなこともあって今までにいくつもの外国語をかじってきたが、
世界語エスペラントもそのひとつ。
久しぶりにボルヘスを読んでいたら、『砂の本』に収められている
「会議」という短編にヴォラピュクの名に並んでエスペラントの名が
出てくるのに気づいた。
「会議」は、ウルグアイの農場主が全人類を代表する世界会議を
作ろうとする物語である。その会議の会員が使う言語の検討対象として
ヴォラピュクとエスペラントが挙げられている。
エスペラントについては、アルゼンチンの詩人ルゴーネスが
「公平、単純、経済的」と『感傷的な暦』の中で述べた、とある。
この「会議」もとても面白いし、ラヴクラフトに捧げられている
「人智の思い及ばぬこと」もゴシックの香り漂う奇妙な味の恐怖小説であり、
名品と思う。
この世界の向こう側に存在する、不可思議なもう一つの世界を描くという
意味で、こうした作品を読むと、カスタネダやr.d.レインとのつながりを
強く感じる。
カテゴリ[ほんの、あれこれ]の記事の分類別一覧です。
書式が統一されておらず失礼。
[小説 | 精神 | 環境 | 生き方 | ノンフィクション]
[小説]
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20080426/1209181603
ホルヘ・ルイス・ボルヘス「砂の本」篠田一士訳、集英社文庫1995
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20080406/1207724507
カート・ヴォネガット「タイムクエイク」朝倉久志訳、ハヤカワ文庫2003
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20071221/1198218083
テッド・チャン「あなたの人生の物語」ハヤカワ文庫2003
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070518/1179477094
「神を見た犬」ディーノ・ブッツァーティ著、関口英子訳、光文社文庫2007
[精神]
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20080111/1200034261
ジェフリー・K・ザイグ、W・マイケル・ムニオン「ミルトン・エリクソン―その生涯と治療技法」
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070731/1185848842
「精霊の呼び声―アンデスの道を求めて」エリザベス・B. ジェンキンズ著、高野昌子訳 (翔泳社1998) http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070618/1182155602
「ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか―感情労働の時代」武井麻子(大和書房2007)
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070605/1181017343
「狂気をくぐりぬける」メアリー・バーンズ、ジョゼフ・バーク著、弘末明良、宮野富美子訳
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070514/1179108623
「エスリンとアメリカの覚醒―人間の可能性への挑戦」W.T.アンダーソン著、伊藤 博 訳、誠信書房1998
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20061114/1163512871
「ハコミを学ぶ」ロン・クルツ
「からだは語る」ロン・クルツ&ヘクター・プレステラ
[環境]
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070712/1184214629
「戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方―エコとピースのオルタナティブ」田中優 (合同出版 2005)
「世界から貧しさをなくす30の方法」田中優、樫田秀樹 (合同出版 2006)
[生き方]
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20080614/1213437158
フロリンダ・ドナー「魔女の夢」近藤純夫訳、日本教文社1987
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070531/1180581863
「チャンスがやってくる15の習慣」レス・ギブリン(ダイヤモンド社)
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070404/1175679612
「哲学者というならず者がいる」中島義道、新潮社2007、1365円
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070212/1171261617
「斎藤一人のツキを呼ぶ言葉」清水克衛(三笠書房・知的生き方文庫)
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20061014/1160822378
「働かないって、ワクワクしない?」アーニー・J・ゼリンスキー(ヴォイス)
[ノンフィクション]
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20080602/1212374178
湊由美子「ゆみペンギン南の島で」東京図書出版会 2008
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20080114/1200284224
藤田西湖「最後の忍者 どろんろん」新風舎2004
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20071223/1198394347
岡本太郎「今日の芸術」光文社1999
http://d.hatena.ne.jp/suganokei/20070218/1171779238
「スローブログ宣言!」鈴木芳樹(技術評論社)
カート・ヴォネガット「タイムクエイク」朝倉久志訳 (ハヤカワ文庫2003)
ヴォネガットの最後の長編。
63の断章とプロローグ、エピローグからなる、いつものヴォネガット節。
ほかの小説でも狂言回し的に重要な役を演じる売れないsf作家
キルゴア・トラウトが主人公。
読み始めて初めのうちは、ちょっとたるいかしら、と思ったのだが、
だんだん面白くなってきて、19章、20章で紹介されるキルゴア・トラウトの
短編「防空壕のビンゴ・パーティ」はトラウトの最高傑作だと思う。
ナチス敗北寸前、ベルリンの地下壕でヒトラーたちがビンゴゲームで遊ぶ、
果たしてヒトラーの最期の言葉は...? みたいなブラックな話です。
それから最後63章でのキルゴア・トラウトの、人間の意識、魂を謳いあげる
演説。ヒューマニストたるヴォネガットの面目躍如、てなとこでしょう。