山田正紀「地球・精神分析記録(エルド・アナリュシス)」
心理学的冒険sf。
今から三十年ほど前、中学生の時に読んでさっぱり分らなかったが、帯の惹句、
「狂っているのは私なのか、それともこの世界なのか」というのが忘れられず再読した。
いささか古めかしいし、若書きの感は否めないが、日本sfの源流を探るためには
外せない連作長編だろう。
二番目の短編「憎悪 オディウス」のインドの街ヴィシュの設定は、「ブレードランナー」や
「ニューロマンサー」に先駆ける雰囲気が感じられ、海外放浪の経験を持つ山田正紀ならではと
思う。
ハインリヒ・フォン・クライスト「チリの地震」
十八世紀から十九世紀にかけて三十四年の短い歳月を生きたドイツの人の短編集です。
やや古めかしくはありますが、奇妙な味の短編好きのかたなら一読して損はない。
表題作の「チリの地震」など悲劇的な因縁譚が中心で、ぼくは芥川龍之介やディーノ・ブッツァーティを
連想しました。
巻末の「マリオネット芝居について」はボルヘスを思わせる哲学小説。面白いです。
何かがかかっているにしても
この命がかかっているだけ
ただそれだけ
人は自由に生きていいし
現に自由に生きている
そのことがだいぶ分ってきた
いつもいつでもいつまでも
ぼくは
こんなふうにいきるんだね