*魂の次元*

せっかく生まれてきたんだから、自由に楽しく生きようじゃないですか。

[ネタバレあり]技巧派の作家が紡ぎ出す「言葉の網の目」に捉えられた12の愛の形 -- イタロ・カルヴィーノ『むずかしい愛』

短編「ある写真家の冒険」

ここに一人の男がいます。彼は自分では写真を撮りません。

けれども、周りの友だちは写真ばかり撮っているため、男は次第に孤立感を感じるようになります。

ところが、この孤立感の本当の理由は、写真ではなかったのです。

同世代の友人たちは段々と結婚し、子どもを持つ身になっていったのに対し、男は独身のままでした。

そう、友人たちは子どもの姿を写すために写真に熱中していったのですが、男には友だちとの共通項としての子どもも家族もなかったことが、男が孤独を感じた真の原因だったのです。

そこで男は、写真を撮る友だちに哲学的かつ政治的な意見をすることによって、自分の心の葛藤を解こうとします。

目の前を通りすぎるものをもらさず取り戻したい人間にとって、唯一、一貫した行動様式は、朝目が覚めたときから眠りに就くまで、最低一分間に一枚写真を撮ることだ。そうすることでだけ、感光したフィルムはぼくらの毎日の細大漏らさぬ忠実な日記を築きあげることになるだろう。もしぼくが写真に手を染めるとすれば、たとえ理性を失うという犠牲をはらってでも、とことんこの道をいくね。ところがきみたちときたら、まだ選択の余地があると思いこんでいる。いったいどんな選択なんだい。牧歌的で、言い訳がましくて、自慰的で、自然や国家や親族と平和にやっていこうっていうのが、きみたちの選択じゃないか。単に写真にとどまるものじゃないんだよ、きみたちのは。生き方の選択なんだ。それが、劇的な対立や矛盾のもつれや、意志と情熱と反感との強烈な緊張を排除することへときみたちを導くことになるのさ。そうしてきみたちは狂気から身を守っていると思っているかもしれないけれど、実のところは凡庸と愚鈍に陥っているわけだ。

友人たちと家族ぐるみで海に遊びに行った男は、友だちの元義妹と別の友だちの元秘書の二人の女の子にスナップ写真を撮ってくれないかと頼まれます。

そしてなかなか上手に写真を撮ることに成功した男は、その写真をきっかけに女の子の一人と一緒に暮らし始め、初めに写真を撮ることを批評していたときと同じ熱心さで、写真にのめり込み、女の子の写真を撮りまくることになります。

さて、この「恋」の行方はどうなるのでしょうか。また、男と写真の関係はどんな結末を迎えるのでしょうか。

以上、イタロ・カルヴィーノの短篇集『むずかしい愛』から「ある写真家の冒険」のあらすじを紹介しました。

フィルムに写真を写していた古き良き時代の作品ですが、インスタグラム世代の今の若いみなさんにも楽しんでいただける短編だと思います。

ご覧の通り、かなり理屈っぽい小説ですけれども(笑)。

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短篇集『むずかしい愛』

イタロ・カルヴィーノは、20世紀のイタリアの作家のうちでもっとも有名といっていいくらい各国に翻訳されている作家であり、日本語でもほとんどの作品を読むことができます。

その作風は、作品ごとにさまざまで、初期の代表作『木のぼり男爵』は寓話風の物語、日本では早川書房から出版されている『レ・コスミコミケ』はSF的ほら話の連作短編、ポストモダンの教科書とも呼ばれる『冬の夜一人の旅人が』はその本を読んでいるあなたが主人公として登場することになるメタ・フィクションです。

『むずかしい愛』という短篇集は、そうした他の作品と比べると、写実的であり、どちらかといえば「普通の小説」といってもよいタイプの作品なのですが、カルヴィーノという作家の「普通」は、世間一般の「普通」からはかなりかけ離れています。

ラテンアメリカ文学のボルヘスやガルシア=マルケス、あるいは不条理小説のカフカやブラックユーモアの効いたヴォネガットなどが好きな方なら、きっと楽しめるはずの一風変わった小説と言えましょう。

『むずかしい愛』というタイトルであるにも関わらず、これを恋愛小説だと思って読んだら、拍子抜けするに違いありません。

そこで描かれるのは「恋愛関係」というよりは、「愛」を通して他者と関係を結ばざるをえない女や男の、滑稽であると同時に崇高な姿なのです。

巻頭の「ある兵士の冒険」では、列車で乗り合わせた男女の欲望の所作が、隠微に滑稽に執拗なまでに書き込まれており、筒井康隆の初期の短編に通じる味わいを感じます。

続く「ある悪党の冒険」は、娼婦の家を舞台に、娼婦とその夫、そして犯罪者と憲兵が繰り広げる小さな小さな冒険物語で、読後感は実に爽やかで「ルパン三世」的とも言えるものです。

三編目の「ある海水浴客の冒険」は、ひとり海に遊びに行き、泳いでいるうちに水着をなくしてしまった女性の不安を、これまた緻密に描いた作品で、どんな結末が待っているのかと、はらはらさせられます。

長いものでも20ページ程度の作品が12編収められた200ページ強のこの文庫本は、一遍いっぺんに様々な趣向が凝らされ、じっくり読むに値するまさに「珠玉」の短篇集です。

ゆったりくつろげる自室で読むもよし、お気に入りの喫茶店で読むもよし、はたまた海や山にでかけて、自然の中で読むにもぴったりの小さな小さな一冊なのです。

カルヴィーノをご存知の方も、ご存知でない方も、どうかどこかでお手に取り、ご覧になっていただけたらと思います。

というところで、この記事はおしまいです。
それではみなさん、ナマステジーっ♬

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