あなたは「ミステリ」って一体どういう小説のことをいうと思いますか?
のっけから唐突な質問で恐縮です。
鯨統一郎の連作短編小説集「邪馬台国はどこですか?」に狂言回し役として登場する気鋭の歴史学者・早乙女静香なら、
「それに答えるには上下二巻の本を書く必要があるわ」
という答えが返ってくるところでしょうが、ここではクールで常識を超えた主人公・宮田六郎を真似て言うことにして、
「ミステリとは謎解き小説のことさ」
とでもしておきましょう。
なぜそんな話をしているのかというと、「邪馬台国はどこですか?」というとぼけたタイトルを持つこの短篇小説集は、創元推理文庫から出版されているにも関わらず、常識的には到底ミステリとも推理小説とも呼びようのない奇妙奇天烈な作品だからです。
この作品の舞台は「スリーバレー」という名の小さなバー。そこで在野の歴史学者・宮田六郎が、常識に挑戦する突拍子もない奇説を展開して、ほかの三人の登場人物を煙に巻く、というのが全編を通して共通する単純明快なパターンの短篇集なのです。
日本古代史が専門の大学教授・三谷敦彦は落ち着いた聞き手役、お人好しでちょっとおとぼけのバーテン松永は、宮田の奇説に納得する役回り、そして気鋭の若き歴史学者・早乙女静香の毒舌全開の突っ込みが話を盛り上げます。
というわけで、この「人も死ななければ、事件も起きない」不思議なミステリについて、これから「できる限りネタバレ無し」で紹介してみたいと思います。
(内容について触れるだけで、一種のネタバレになりますので、各短編タイトルから分かる以上のことは、極力触れないようにしております)
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